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トランジット・スピード [航空関係]

羽田への着陸のため、大島へ向け降下を続けていました。
降下速度を270ノットに指定されていた何処かの飛行機が、東京コントロールへこんな要求をしていました。「軽い揺れが続いていますので、290ノットまで増速させて下さい」
もちろんすぐに許可されたのですが、何でこんな要求をするのだろう?と疑問に思いましたね。

恐らくタービュランス・ペネトレーション・スピードである290ノットを意識しての事なのでしょうが、この速度はモデレート・タービュランス以上の騒乱状態の時に奨励される速度であって、軽い揺れの時は270ノットで飛ぶ事に何の問題もないと思うのですが。
飛行機も自動車と同じ。ガタガタ道を走る時は速度を落とした方が衝撃、揺れは少ないんですよね。但し自動車と違って闇雲に速度を落とす事は失速速度との関係からも出来ませんが。

やっぱり、『何かしなければ症候群』 に毒されているのかな?
ちょっとの揺れでもコーパイが何もしないと「お前は何も考えてない」と言われてしまうのです。

ところで、管制方式基準が改定され、こんな降下指示が出されるようになりました。
“Maintain Mach Point 85,Transit Speed 310knots”

今までのようにマック数の指示だけですと、こんな事が起きてしまうのです。

blogmmovmos.gif

マック0.85(青線)で降下を続けていますと、4万フィートで約260ノットだった計器指示速度(IAS)が高度が低くなるにつれて増加して行き、3万5千フィートでは290ノット、3万フィートで325ノット、そして約2万4千フィートになりますと、ついには最大運用限界速度(VMO)である365ノット(赤線)を超えてしまうのです。
最大運用限界速度とは故意に超えてはならない速度ですので、これでは困ってしまいますよね。

そこで、マック数から ISA に切り替える速度を指定するようになったのです。青線のマック数にそって降下して行き、3万3千フィートを過ぎた高度から IAS 310ノット(黄線)での降下に切り替える訳です。

ところで、-400の VMO は365ノットですが、これは十分すぎるほどの余裕を持った最大運用限界速度になっております。
何故なら、在来型のB747では、この値が約390ノット付近にありました。付近と言いましたのは、高度によって変化してくるからです。
それを、-400では365ノットでスパッと切ってしまっているのです。新型機ではこの手法が主流となっているのですが、その方が型式認定のテスト・フライトが楽なのではないでしょうか。

もう一つ、この MMO/VMO も、設計急降下速度 MD/VD からは十分な余裕をもって設定されています。MD はマック0.97。VD は高度によって変わってきますが、1万5千フィート付近では約450ノットになります。

近頃、“Request Transit Speed” との要求をしているパイロットがいますが、トランジット・スピードは状況によって指定される速度であって、必ず指定される訳ではありませんので、こんな要求をするのは変ですよね。
降下を開始してから減速の指示があったりしますと、ちょっと困ってしまいますので、その気持ちが分からない訳ではないのですが。


ひとつ余談を。
あるブログを見ていて、変だなと思った事がありました。
我々乗務員のパスポートには、出入国のスタンプは一切押されませんので、新しいパスポートになってから、私用での海外旅行をしていない私のパスポートは、今でも真っ新です。あるのは米国のビザだけ。と言う訳で、我々のパスポートがスタンプで一杯になることなどないのです。

東南アジアでは ID カードでフリー・パス。ヨーロッパでも時々「パスポートを見せろ」 と言われる事はありますが、見るだけでスタンプを押したりはしません。念のため。

コメント(2) 
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コメント 2

K

いつも興味深く拝見しております。
降下中のスピードについて、Recommended Speedを聞いたりする人もいますよね。

パスポートの件ですが、どのブログのことか分からないのではっきりとは言えないのですが(ブログの主がCAPと同じところしか行かないなら別ですが)、乗員のパスポートにスタンプを押す国もあるのではないですか?
by K (2009-01-29 01:29) 

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パスポートの押印ですが、インド、中国ではスタンプが押されます。

by お名前(必須) (2016-04-30 12:01) 

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