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BRAVE HEARTS 海猿 [航空関係]

以前、コメント覧でも話が出ていました BRAVE HEARTS 海猿 をWOWOWで観ました。
感動的なラストではありましたが、正直な感想は、「あまりにもリアリティがなさ過ぎる」 でした。
確か、潜水器具にはレギュレーターが付いていて、周囲の水圧と同じ圧力にして肺に空気を送り込むと聞きましたが、キャビンの酸素マスク程度の圧力では、60メーターの水圧に負けて、とても呼吸は出来ないと思いますが。

blogbravehearts.jpgBRAVE HEARTS 海猿の公式ページより。

もっともこの映画、海上保安庁レスキュー隊の活躍を描くのが主題ですので、他のことは適当でよかったのかもしれませんが、嘘はいけません。ドラマとしての面白さや感動は別として、シナリオのおかしな点は指摘しておかずばなりますまい。

まずは、飛行機のエンジンに火災が発生した時、「Engine Fire Check-List 」 とコールしてましたが、これは間違いです。「Fire Engine Check-List 」 とコールするのが正解なのです。

順番が入れ替わっただけじゃないかと仰いますか?いいえ、その順番が重要なのです。
分厚いチェックリストの中のどの項目を開けば緊急時の操作手順が示されているかが分かるのですから。
Engine Fire なら ENGINE の項目に。Fire Engine なら FIRE の項目に記載されているのです。一刻を争う時、この事は重要ですよね。

そして、羽田の滑走路に着陸直前、右側の車輪しか出ていないことに気付いてゴー・アラウンドを行いましたが、あの状態でのゴー・アラウンドは絶対に無理なのです。
飛行機のマニュアルも、車輪を下ろした後にゴー・アラウンドを試みてはならない となっております。
車輪の空気抵抗で上昇できないのです。更に、
片側2発のエンジンしか作動していませんでしたので、VMCA(最小操縦速度)は160ノットを超えている事になり、それ以上の速度にならないとエンジンをフル・パワーに出来ないのですから。
あの時の着陸速度は150ノット程度だったでしょうから、フル・パワーにしたら機体が左側へひっくり返ってしまうでしょう。

また、4系統ある油圧システムのうち3系統が不作動と言ってましたが、どの油圧システムが不作動になると、映画のような状態になるのでしょう?映画では右側のボディ・ギアとウイング・ギアが下りてました。
ボディ・ギアとウイング・ギアは別系統ですので、3系統不作動ならボディとウイング・ギア両方が下りる訳はないのですが、シナリオ・ライターは右と左で別系統になっていると考えたのかな?
また、1系統の油圧システムしか作動していないのなら、上下に別れているのラダーのどちらか一方しか働きませんので、VMCA は200ノットを超えてしまい、真っ直ぐ飛ぶことさえも不可能になってしまうでしょう。
2系統が不作動ぐらいの設定にしておけば良かったものを。

そして、暗くなって海面が見えないと高度の判断が難しいと言うことで、海上にライトを並べていましたが、無駄な努力だったような気がします。実際それ程暗くはなっていませんでしたしね。
巡視艇・巡視船を500メーター幅ぐらいで並べておけば十分だったような。
最後に、中央から真っ二つに割れた機体が沈む時、タイタニックのように竿立ちになって沈んで行きましたが、海面下にはどんな重しがあったのでしょう?

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カイホ

久しぶりの[航空関係]わくわくしながらブログ拝見しました。
東京湾湾奥部の水深はせいぜい25Mですので、全長70Mの747は
沈まないのです・・・。それはともかく

警察も消防も自衛隊も海保も同じで志願者が欲しい気持ちと、売上(視聴率や観客動員数)がほしいTV局の思惑は一致したのですが、フジTVはあまりに脚本を出鱈目にふくらました為、原作者の怒りをかい次作はなくなったそうです。

過ぎたるは及ばざる如し でしょうか。ハッピ- フライトのような作品が待たれます。

バグラムでの事故。推定50°のピッチとおろしたままのギアがとても気になるのですが。
by カイホ (2013-05-08 21:36) 

友三

こんばんは。
航空関係の記事、毎日、更新楽しみにお待ちしていました。
海猿も好きですが、「本当のところ、どうなんだろ?」の方が、
興味津々です。

飛行機オタクの端くれですが、通常の運行の様子から、現実
離れする程、実際との違いが不明になり、飛行機に興味の無い
人と同程度の目線で、ジャンボを見てしまいます。

ハッピーフライトのコクピットのやり取りを、インシデント未満ギリギリの
日常の風景の様に捉えていますが、現実、どうなんでしょう?
日常のコクピットの様子等、いつか記事にしてもらえると、とても
楽しめそうです。 何卒宜しくお願い致します。

by 友三 (2013-05-08 22:44) 

FD

映画では水深が60メーターと言っておりましたが、その程度でしたか。
あまりに盛りだくさんですと現実から乖離しすぎて、保安庁の思惑も外れて
しまうかもしれません。

バグラムでの事故、ドライバーも恐かったでしょうね。
原因は色々言われているようですが、貨物パレットのロックが不完全で
機首上げの時、貨物室後方にずれ落ちてしまい、重心の許容範囲から
大きく外れてしまったのかもしれません。
あの大きな747でも重心の許容範囲は2メーター弱なのです。
前から3番目のドアの位置と幅がそれに当たります。
ギアが上がっていなかったと言うことは、離陸直後に異常が起き、ギアを上げるのを
忘れてしまったと考えられます。


飛行機から離れて1年半。
787などの新鋭機の登場で、少しずつ浦島太郎状態になっていくでしょうが、
ブログの話題に出来るような出来事、映画などがありましたら、出来る範囲で解説していきたいと考えております。

by FD (2013-05-09 16:56) 

カイホ

これからも航空関係の解説、是非よろしくお願いします。

前根明さんや高野開さんは恐らくラストフライトから10年は経って
いると思われますが、まるで昨日まで操縦していたかの如く、TVで
787のトラブルを語っておられました。

アプローチでのCG変化ならわかるのですが、離陸時に関するCGに
ついては貨物担当の操縦士は最も神経を使う(トラブルを予見して
貨物を配置する)と聞いているのですが・・・。
貨物のご経験のあるFDキャプテンの更に詳しい解説をお願いします。
自分はCGではなく、油圧に原因があるように感じるのですが。
by カイホ (2013-05-10 21:15) 

FD

航空法73条の2(出発前の確認)に、機長は「運航に必要な準備が整っていることを確認した後でなければ、航空機を出発してはならない。
となっているのですが・・・・・
1.当該航空機及びこれに装備すべきものの整備状況。
2.離陸重量、着陸重量、重心位置及び重量分布。
その他を確認することになっています。
しかし実際にはパイロットが機体の整備状況を自ら確認する訳ではありません
ように貨物の搭載位置も搭載管理者に任せることになっています。
そしてパイロットは、最終的に重心位置が規程内に収まっているのかを
確認するだけなのです。

航空法の規定と、実際の運用は違ってくるのは当然と言えるでしょう。

by FD (2013-05-11 19:49) 

トメ

FDさんご無沙汰しております。

この物語、ダイバーの視点で見ても矛盾がありますよね。
まず、飛行機に搭載されている非常用酸素マスクのボンベは酸素濃度がいかほどなんだろうか?ということが問題になります。
大気圧1気圧における空気中の酸素分圧は0.2気圧ですが、これが1.6気圧を超えてくると酸素中毒になってしまい「死」に至ることもあるそうです。
水深60m、7気圧下における空気の酸素分圧は1.4気圧。空気ボンベを背負って潜水した仙崎達も限界です。
一方、吉岡君。非常用酸素ボンベの酸素濃度が仮に50パーセントであったとすると酸素分圧は3.5気圧となってしまい酸素中毒によって帰らぬ人になってしまいますよ。
非常用酸素ボンベは上空40,000ftの気圧で酸素欠乏症にならない酸素濃度を有していると想像されますので酸素濃度はかなり高いのではないでしょうか?
吉岡君、不死身?

B787の飛行が再開されますね。飛行停止中に資格を失ったパイロットさんが多数いそうですね。資格の再取得は大変なんでしょうか?
by トメ (2013-05-14 14:19) 

FD

お久しぶりです。詳しい説明、ありがとうございました。
クルー用の酸素マスクは、100%酸素と空気との混合を選んで切り替えることが
出来るようになっています。
と言うことは、酸素ボンベ内には100%濃度の酸素が充填されており、
混合を選びますと、機体内の空気と混合されることになります。
その混合比は機内高度で変わってくるそうですが、詳しい説明はありません。
乗客用の酸素マスクに関しても、同様に詳しい説明はありません。
言い訳のようになってしまいますが、パイロットが知っていても意味の無いことは
教えないと言うのが今流(欧米の合理主義?)なのです。
YS-11の頃は、タイヤの空気圧やランディング・ライトのワット数まで覚えさせられ
ました。

B787の運用再開。
飛行停止中に資格を失ってしまわないよう、国土交通省が資格維持の特例を
認めたと聞きました。
再開にあたっては、シミュレータによる十分な訓練が行われるでしょうから
その点の心配は無いと思います。

by FD (2013-05-14 17:38) 

キネマ航空CEO

昨年の今頃FD機長様のページにリンクをご承諾いただきました。その節はありがとうございました。

>ブログの話題に出来るような出来事、映画などがありましたら、
>出来る範囲で解説していきたいと考えております。
とのお気持ちを拝読いたしました。

弊社フライトにご参考にしていただける作品があるかもしれません。
また近々パイロットが主人公の映画をまとめたフライトを行う予定であります。

プロの目からは下らん作品ばかりか、とも思いますが、「素人はこんなもんか!?」との視点で解説をいただければ当キネマ航空として本懐です。
by キネマ航空CEO (2013-05-14 19:53) 

カイホ

787 動きはじめました!羽田では、

GWは地上走行でしたが、先週からはテストフライトが始まりました。
なんせ、787担当機長は青社・赤社 併せて300名近く在籍されている
そうです。特例で免許が保持できたそうですので元気にご活躍いただきたいですね。

飛行機もパイロットも飛んでこそ・・・。
頑張ってください、応援してます!
by カイホ (2013-05-14 22:08) 

FD

B787。
今度こそ上手く飛んで欲しいですね。
航空会社の屋台骨が傾かないように。もちろんボーイングも。

クローズアップ現代でしたか、ボーイングは世界中から集まったユニットを
組み立てるだけなので、1機を完成させるのに要する日数は6日とか言ってました。
プラモデル(失礼)よりも簡単?

by FD (2013-05-15 14:16) 

おじゃま虫

おお、久々の機長解説おおきにでした。
片側エンジン停止、復航フルパワーは想像しただけで片翼を路面に引っ掛けて墜落していく画像が再生されました。
でも見てみたい映画になってしまいました。
by おじゃま虫 (2013-05-17 21:05) 

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