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YS-11 [航空関係]

YS-11に愛着を持っておられる航空ファンは多いようですが、戦後日本初の、唯一の旅客機と言う事なので、当然の事かもしれません。私の場合も、YS-11で訓練生からコーパイへと昇格し、6年半乗った思い出の飛行機ではあるのですが、最後まで好きになれませんでした。
乗ってみれば分かりますが、はっきり言って駄作です。

★とにかくパワーがなさ過ぎました。

44人乗りのフレンドシップと同じエンジンで、64人乗せようとした訳ですから、パワーが足りないのは分かりきっていたでしょうに。
軍用機にしろ軍艦にしろ、昔から日本人はあれもこれもと欲張ってしまうんですよね。その点、無理をしていないフレンドシップは、バランスの取れた良い飛行機だったと聞いています。

水メタノール噴射にして、離陸時の馬力は稼いでいましたが、噴射を止めた後がいけません。
客室予圧の制限による上昇限度は2万フィートとなっていたのですが、夏場はその半分近い1万3千フィートが精一杯。下降気流があったりしますと、上昇中に高度が下がってしまう事もあったんですよ!
操縦していて、疲れる飛行機でした。
パワー不足はエアコンにも影響を及ぼし、特にコックピットが最悪でした。冬場は、制服の上着にコートまで着て操縦してましたよ。

突然ですが、旧高松空港の夜明け。なかなか味のある写真じゃないか!と自画自賛。

blogys-11takamatsu.jpg
YS-11で検索しますと、『FAAの再審査で当時としては難しい片発離陸(離陸直後のエンジントラブルで片方のエンジンが停止しても安全に離陸できるかを試すテスト)を成功させ機体の性能の高さを立証』 などと言った記述を見かけますが、T類(注)には当然要求される最低限の性能であって、自慢するほどの事ではないと思いますが。

(注)T類とは、航空運送事業の用に適する飛行機で、
① 離陸時1個の臨界発動機が停止しても、安全に離陸できる事。
② 離陸後も臨界発動機停止の状態で、飛行場の周囲を高度を維持しながら1旋回できるような高度まで上昇できる事。
③ 離陸経路上のいずれの点においても、安全上必要な最低限度以上の勾配で上昇できる事。
などの性能要件があります。と言う事は、単発のT類はあり得ないと言う事になりますね。

内回りしているエンジンが停止して、外回りしているエンジンが残ってしまった場合の方が、操縦性により悪い影響を与えますので、YS-11の臨界発動機は右(No.2)エンジンになります。

離陸時にエンジンが故障したとします。YS-11の場合はパワーがありませんので、対地高度4百フィートで水平飛行を行い、加速してフラップを上げます。そして揚力も増えるが抵抗も大きいフラップを上げ終えてから、再び上昇に移る事になります。
ところが、旧高松空港では周りに障害物が多く、この方式が通用しなかったんです。怖いですね~!
そこで、ここだけの特別な飛行方式が設定されていたのですが、それはあくまでも机上の計算。「◯◯フィートの高度差で、鉄塔をクリア出来るはず」 と言われてもね・・・・・

-400は余裕しゃくしゃくですので、上昇しながらどんどん加速出来るんですが。

★人間工学的な設計がなされていない。
同じ形のエンジン消火装置とギア・ベイ消火装置が一列に並んでいたり、エンジン計器やスイッチ類の配置も支離滅裂。
もっとも当時の人間工学のレベルは世界的に見ても、この程度だったのかも知れませんが。

★人間の本能も無視した造りになっていた。
緊急時、人間は本能的に、機内へ搭乗してきた入り口から逃げ出そうとするのですが、前方左側のメイン・エントランス・ドアは、内側に設置してある折りたたみ式階段のため、緊急脱出口として使用する事が出来ません。

blogys-11door.jpg緊急脱出口には救助隊の活動を助けるため、右の写真の後部ドアのように、反対色を使ったマーキングが施してあるのですが、メイン・ドアには当然の事ながら、緊急脱出口である事を示すマーキングはありません。

★オート・パイロットが装備されてない。
確かに初期段階ではオート・パイロットは装備されていませんでしたが、その理由は、電気容量の不足にあったようです。
オート・パイロットと気象レーダーどちらを選ぶ?と、二者択一を迫られたパイロット達が、気象レーダーを選んだと言う事らしいのです。これは当然の結論でしょう。私も同じ選択をしたと思います。
最終的には全ての機体にオート・パイロットが装備されました。

YS-11には直流、交流2個の発電機が装備されていましたが、交流の周波数はエンジン回転が変化しますと、当然同じように変化します。ヒーターなどの電源として使う場合は、特に問題はないのですが、飛行計器やオート・パイロットの電源としては使う場合は問題が出てきます。
そこで、直流発電機が発電した直流電源を、インバータを使って周波数一定の交流に変換し、オート・パイロットなどの電源として使っていたのです。

ボーイングのジェット機は?全て115V / 400Hzの交流発電機を使っていますが、エンジン回転の変化に対応するため、CSD(Constant Speed Drive)を使って、発電機の回転数を一定に保つようにしています。この CSD、非常に精密で高価な代物だと聞きました。
-400には更に進んだ、IDG(Integrated Drive Generator)が装備されています。
必要な直流電源は、TR ユニットで交流から直流へ変換しています。

★そして最大の問題点は、あの大直径のプロペラ。
千2百メーターの滑走路に着陸出来るようにするためには、大直径のプロペラが発生する空気抵抗を利用する必要があった。と聞きましたが、同時に大きなウイーク・ポイントに成りうる場合もあります。
エンジンが故障し、なおかつプロペラがフェザー状態にならなかった場合、大きな偏揺れが起きて、操縦不能に陥ってしまう可能性があるからです。

例えば、松山沖事故の事故調査。コリオリー現象などを持ち出して、パイロット・ミスをほのめかしておりますが、そんな可能性があり得ると言うだけの話であって、説得力はありません。
もっともこの話、事故調査の参考資料として扱われただけで、事故調査報告書には記載されなかったそうですが、あくまでもパイロット・ミスとしたい思惑が見え見えですよね。
パイロット・ミスなら、その後の運航に影響がありませんが、機体の不具合となりますと、運航停止などの影響が出る可能性がありますからね。

何件か起きた墜落事故や不時着事故。私はプロペラが怪しいと睨んでいます。
実際、私もプロペラのトラブルを経験しました。
飛行中ではなく、エンジン・スタート中だったのですが、フェザー方向へとプロペラ・ピッチが勝手に動いてしまい、TGT(タービン・ガス温度)が異常に上昇して、エンジンを焼きそうになったのです。
YS-11のエンジンはフリー・タービンではありませんので、必ずグラウンド・ファイン・ピッチでエンジンをスタートする必要がありました。

今の新鋭機はフリー・タービンが多いようで、エンジンが停止している時、プロペラはフェザー状態になっていますね。エンジンが止まって油圧がなくなると、スプリングでフェザー方向へ引っ張る(押す?)ようになっていますので、構造が簡単で確実性が高くなると思われます。
YS-11はフェザー・ポンプなる物が装備されていて、ポンプの油圧でフェザーにしていました。余計な物が付いていますと、故障する可能性が高くなります。
blogturbine.gif
Bのフリー・タービン型の場合、エンジン・スタートの時、圧縮機と高圧タービンを回すだけですので、それほどの負荷は掛かりませんが、AのYS-11の場合(直結型)、圧縮機(遠心式)、タービン、プロペラの全てを同時に回す事になりますので、プロペラがフェザーになっていますと、スタータとエンジンに大きな負荷が掛かるのです。

そんなこんなで、YS-11からボーイング727に移行した時にはホント感動しました。「これぞ本物の旅客機だ!」 と思いましたね。
ポンコツの軽自動車から、スカイラインGTに乗り換えた感じでしょうか。
-400は?はい、カーナビ付きのレクサスLSでしょう。

YS-11が日本の航空運送事業から引退した今、これくらいの悪口は許されますよね。
許せ、YS-11ファンの皆さん。

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HAL

ファンの評価と実際に飛ばした人の評価が全く分かれるのもYS-11ならではでしょうか。飛ばした方の大半は出来が悪い飛行機だったと言いますね。ファンの方の大半は名機だったと。

私の感じでは、初めての国産旅客機として歴史に残る飛行機であるし、懐かしい飛行機ではあるけれど、技術的に見たらあちこちに無理があったという感じがします。FDさんご紹介の点は代表的な問題点ですね。

旅客機を作る人間が旅客機を知らなかったというのも問題の一つだったのでしょうね。軍用機しか作ったことのない面々が基本設計をし、旅客機なんぞというものに乗ったことがない面々が詳細にブレークダウンをしたのですから無理からぬ面もあったのでしょうが。

冷静に評価するとヒコーキファンにあらずという風潮もあるようですが、懐かしむ思い入れとは別に、正確に日本が何が作れて何が作れなかったか、記しておくことが必要な気がします。

by HAL (2009-07-05 07:57) 

FD

YSが好きな人は、名機だと信じていればいい訳ですし、私のように批判したければ、それもよし。ネタは山ほどありますし。

冷静に考えれば、当時に日本の技術では、アレが精一杯だったのでしょう。
その意味では、名機と言えるかも。
by FD (2009-07-05 15:06) 

Ryoraku

将来、MRJがパイロットに「名機だった」と言われるような素晴らしい旅客機になることを願っています。
by Ryoraku (2019-02-26 15:58) 

無責任一代男

おお、10年経ってなつかしいYSのお話。そんなに悪評が高かったとは初めて知りました。全工程手動操縦だから機内で人が移動したら手応えで分かると聞きました。
by 無責任一代男 (2019-02-27 19:20) 

FD

古い記事にコメントしていただき、ありがとうございます。

MRJ 戦後ライセンス生産などで築き上げてきた航空技術の結晶として成功する事を切望しているのですが、開発の遅れによりライバルとの差が縮まって来ていることが気になるところです。

確かに手動で操縦していますと、CAが歩き回るたびに操縦桿に微妙な力が働くことを実感していました。

by FD (2019-03-01 20:13) 

Minoru Tsuda

こんにちは。ウォーターメタノールを検索していたらヒットしましたので拝読しました。YS-11ファンからすると、きびしい評価ですね。wikipediaの記述がカライりゆうがわかりました。1991~1994 伊豆大島に赴任しまして、23区内(自宅)に住んでいたもので、東京(羽田)ー大島間のANK YS-11には150回以上搭乗しました。
長年の疑問があります。エンジン始動時にドコンというおおきな音が聞こえるのが不思議でした。知人のパイロットも昔載っていたのですが、尋ねてみたらコックピットでは気にならなかったのでわからないといわれてしまいました。とにかく、搭乗する度に「ドコン」音を楽しみにしておりました。お分かりでしたらお教えください。1943年生まれ、78歳、男です。1959年からハムです・・・・無線マニアです。今でもVHFエアバンド 、短波のVOLMET、洋上管制(コロナの影響で寂しくなりました)等、いまでもワッチします。先述のパイロット(ハム仲間)談・・・衛星ACARSでテキスト読めるので短波受信(Volmet)、通信はあまりやらなかったと言っていました。
by Minoru Tsuda (2021-09-16 11:51) 

FD

古い記事にコメント頂きまして、ありがとうございます。
私の偏見?に満ちた YS-11 の評価は記事の通りですので、YS ファンの
皆さんには申し訳ありません。
「エンジン始動時にドコン」との大きな音ですか?あまり気にしてはいません
でしたが、考えられることとしましては、点火プラグの音が結構大きかった
ように記憶しております。ただし「バチバチ」との音だったような。
他にはスターター・モーターのギアがかみ合う音だったかも。
リタイアしましたので、近頃は航空ネタが少なく、政治がらみの不満ばかり
ですが、これからも時々ご訪問下さい。最後に YS がらみのネタを。
NHK プロジェクトXで YS 開発時の苦労話を取り上げていましたが、
最後に成田の航空科学博物館に「1960年代に日本航空機製造で製作された
ターボプロップ旅客機です。この機は試作1号機で、型式証明取得等の
飛行試験に使用されました」とありますが、真っ赤な嘘です。
展示されているのは試作機と同じ塗装をした量産機の YS-11A でして
翼前縁がラバー・ブーツ式の除氷装置となった後期型なのです。
博物館の HP にも同様の記述がありますが、ご愛敬と言うことで。
ついでに、もう一つの航空ネタを。同じく NHK のアナザーストーリー、
全日空857便ハイジャック事件を取り上た中で、「客室のドアは外から
開けることが出来ない」と言っていましたが、これも真っ赤な嘘。
飛行機が到着してボーディング・ブリッジを取り付けた後、安全のために
ドアは外から開けています。
外から開けることが出来ると言ってしまうと、問題があると考えたのかもしれませんが。

by FD (2021-09-17 23:32) 

Flyingtak1

はじめまして。当方、X-Plane11(フライトシミュレータ)を長年やっております。定年退職して、暇が出来たので、機体制作を楽しみ始め者です。先日より、YS-11の制作に着手して、一応の飛べる機体は出来たのですが、詳細については、素人が試行錯誤中している状況です。操縦系統について、あれこれと調べ始めて、こちらの記事に辿り着きました。とっても腑に落ちる、本職のコメントで凄く参考になりました。また、成田の試作1号機が偽物とは知りませんでした。どうりで、当時の映像とカラーリングが微妙に違っているわけですね。機体製作の過程は、拙ブログ記事にしております。もし御興味ありましたら覗いて頂いて、間違いなどありましたら、御指導いただけると幸いです。さらには、もし可能ならば、X-Planeで飛んで頂いて、操縦感覚についても御評価を頂ければ最高なのですが。
by Flyingtak1 (2022-09-01 13:26) 

FD

ブログを拝見しましたが、YS-11 に対する情熱には感嘆いたしました。
あまりにも詳しすぎて、何をお答えすればよいかが分かりませんし、
なにしろ 1981年に B727 に移行しましたので、記憶もあやふやに
なっております。
通常のレシプロ機はプロップレバーで回転数を、スロットルレバーで
パワーを調整しますが、YS-11 にはプロップレバーが装備されていません。
そこでスロットルレバーを一定 (回転一定) にして、
トリマ-・スイッチで 20%~100% 間で変化させてパワーを調整して
いました。
また、フラップのレバーですが、ボーイングなどと同じように5~35
のように GATE 式に改良されました。
また座り心地が悪かったオリジナル・シートから、B727/737 と同じ
シートに換装されました。
ランディング・ライトですが、最初から翼下面に埋め込み式になっていたと
思います。
防氷装置は初期型の YS-11 では燃料を燃やすジャニトロヒーター式
になっていたのですが、主翼の片方が故障した場合、反対側からの
バックアップが出来ませんでしたので、米国 FAA からの承認が得られず、
YS-11A ではラバー・ブーツ式の除氷装置に変更されました。
個別に質問して頂ければ、昔を思い出しながらお答えできると思います。

by FD (2022-09-09 22:32) 

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