MEL [航空関係]
MEL(Minimum Equipment List)とは、航空機を運航するにあたっては、完全に整備された状態で運航する事が理想ではあるものの、部品在庫の問題、整備に要する時間的制約等も考慮し、一部不具合を持ち越した状態での運航が許容されるかどうかの判断基準を、安全に支障がない範囲で定めた社内規定の事です。
一例を上げますと、
着陸灯が不作動であっても、夜間の時間帯にかからない場合には運航が許容されます。
ただ、ここで気を付けなければならない事は、全ての装備品に関わる運航の可否について記載してある訳ではないと言う事です。
エンジンのように、安全性を確保するために必要な装備品に関しての記載は当然ありませんし、逆に客室装備品のように、安全性に影響を与えない装備品に関しての記載もありません。
MEL のリストにエンジンに関する記載がないからと言って、「エンジン一発不作動でも出発する事ができる」 と言う人はいないでしょうが、航空法上装備が義務づけられている計器類に関しても同様に記載がありませんので、「MEL に規定がないから、このまま出発しても問題ない」 などと、誤った適用をしないよう注意する必要があります。
パイロットの立場からすれば、やはり完全に整備された状態でフライトを行いたいので、安易に MEL の規定を持ち出すのではなく、修復の努力に努めて欲しいと考えるのは当然の事でしょう。
先日、その MEL 適用の是非をめぐって、立場の違いが際だった事例がありました。
飛行前の点検で、コックピットから客室のCAを呼び出すインターホン・システムの一部に不具合があるらしく、コール・ライトが点灯すると同時に鳴るはずのチャイムが鳴らない事に気が付いたのです。
整備事務所と無線で連絡を取りながら修復作業を開始した整備士は、「MEL を適用するかどうか、いま検討してます」 などと、整備サイドが適用可能と判断さえすれば、すぐにでも MEL を適用しての運航が可能であるかのような言い方をしておりましたが、ちょっとばかり認識が違うんじゃないかい?
MEL の適用を最終的に承認するのは PIC なんだよ。その PIC の意向を無視するかのように、「適用するかどうか検討中」 とは聞き捨てならない。最初から MEL の適用ありきで、PIC をないがしろにするがごとき、こんな対応が近頃多くなってきている事に、危惧を抱いている所なんですがね~
今回も、CB(Circuit Breaker)リセットなどの簡単な処置をしただけで、「直りませんので MEL 適用で行きたいと思います」 と言って来たのですが、MEL を適用するにあたっては、確認しておかねばならない項目が幾つかあります。ここはじっくりと、判断基準にのっとった確認作業を進める事にしましょう。
そして、その確認作業を行いましたところ、当然のごとく、『代替の連絡手段をCAとの間で確認しておく事』 との項目が記載されていました。
そこで、チーフ・パーサーを呼んで、緊急時でも確実に連絡を取り合えるかどうかの確認を行ったのですが、「チャイムが鳴らないと、コックピットから連絡が来ても、すぐに気が付かない可能性がありますので、緊急時の対応に不安があります」 との返答でした。
緊急事態が起こる可能性は何万分の一でしょうが、不具合が発生しているポジションがL1(チーフ・パーサー席)とR1である事、主整備基地(羽田)からの始発便である事なども考慮して、「この MEL の適用は承認できない」 との判断を担当整備士に伝えました。
私が MEL の適用を拒否しましたので、更なる整備作業が続けられたのですが、出発の時刻はとっくに過ぎています。コックピットからも搭乗ゲートが見えますので、イライラしているであろう乗客の様子も分かります。
応援の整備士もやって来ているようですが、このまま修復できなければ使用機材の変更が必要となり、大幅な遅れとなるでしょうし、最悪の場合はフライト・キャンセルと言う事も考えられます。
これくらいの事には目をつぶって出発すべきだったか・・・・・・・・・いや、やはり安全第一で行くべきだ。
MEL 不適用の判断をした PIC の私には、大きなプレッシャーがのし掛かってきています。
チャイムが鳴らないポジションがL1以外だったら、MEL の適用を認めたのですが。
そして整備作業を続けること十数分・・・・・。「直りました!」 と言いながら、先程の整備士がコックピットへ飛び込んで来たのでした。ホラみろ、やる気になれば直るんだよ!
インターホンが正常に作動する事を確認し、彼がコックピットから出て行こうとする時に、「ご苦労さん」 と声を掛けたのですが、彼の顔が一瞬和んだように見えたのは気のせいか?
整備士だって完全に整備された飛行機を我々乗員に提供したいはず(そう信じてます)。しかしながら定時運航へのプレッシャーだったり、上の方からの、「MEL を適用して、さっさと出発させろ!」 との圧力があったりで、彼らも板挟みの苦しみを感じている筈なんですよ。
ランディング・ライト、
バルブ交換。
一例を上げますと、
着陸灯が不作動であっても、夜間の時間帯にかからない場合には運航が許容されます。
ただ、ここで気を付けなければならない事は、全ての装備品に関わる運航の可否について記載してある訳ではないと言う事です。
エンジンのように、安全性を確保するために必要な装備品に関しての記載は当然ありませんし、逆に客室装備品のように、安全性に影響を与えない装備品に関しての記載もありません。
MEL のリストにエンジンに関する記載がないからと言って、「エンジン一発不作動でも出発する事ができる」 と言う人はいないでしょうが、航空法上装備が義務づけられている計器類に関しても同様に記載がありませんので、「MEL に規定がないから、このまま出発しても問題ない」 などと、誤った適用をしないよう注意する必要があります。
パイロットの立場からすれば、やはり完全に整備された状態でフライトを行いたいので、安易に MEL の規定を持ち出すのではなく、修復の努力に努めて欲しいと考えるのは当然の事でしょう。
先日、その MEL 適用の是非をめぐって、立場の違いが際だった事例がありました。
飛行前の点検で、コックピットから客室のCAを呼び出すインターホン・システムの一部に不具合があるらしく、コール・ライトが点灯すると同時に鳴るはずのチャイムが鳴らない事に気が付いたのです。
整備事務所と無線で連絡を取りながら修復作業を開始した整備士は、「MEL を適用するかどうか、いま検討してます」 などと、整備サイドが適用可能と判断さえすれば、すぐにでも MEL を適用しての運航が可能であるかのような言い方をしておりましたが、ちょっとばかり認識が違うんじゃないかい?
MEL の適用を最終的に承認するのは PIC なんだよ。その PIC の意向を無視するかのように、「適用するかどうか検討中」 とは聞き捨てならない。最初から MEL の適用ありきで、PIC をないがしろにするがごとき、こんな対応が近頃多くなってきている事に、危惧を抱いている所なんですがね~
今回も、CB(Circuit Breaker)リセットなどの簡単な処置をしただけで、「直りませんので MEL 適用で行きたいと思います」 と言って来たのですが、MEL を適用するにあたっては、確認しておかねばならない項目が幾つかあります。ここはじっくりと、判断基準にのっとった確認作業を進める事にしましょう。
そして、その確認作業を行いましたところ、当然のごとく、『代替の連絡手段をCAとの間で確認しておく事』 との項目が記載されていました。
そこで、チーフ・パーサーを呼んで、緊急時でも確実に連絡を取り合えるかどうかの確認を行ったのですが、「チャイムが鳴らないと、コックピットから連絡が来ても、すぐに気が付かない可能性がありますので、緊急時の対応に不安があります」 との返答でした。
緊急事態が起こる可能性は何万分の一でしょうが、不具合が発生しているポジションがL1(チーフ・パーサー席)とR1である事、主整備基地(羽田)からの始発便である事なども考慮して、「この MEL の適用は承認できない」 との判断を担当整備士に伝えました。
私が MEL の適用を拒否しましたので、更なる整備作業が続けられたのですが、出発の時刻はとっくに過ぎています。コックピットからも搭乗ゲートが見えますので、イライラしているであろう乗客の様子も分かります。
応援の整備士もやって来ているようですが、このまま修復できなければ使用機材の変更が必要となり、大幅な遅れとなるでしょうし、最悪の場合はフライト・キャンセルと言う事も考えられます。
これくらいの事には目をつぶって出発すべきだったか・・・・・・・・・いや、やはり安全第一で行くべきだ。
MEL 不適用の判断をした PIC の私には、大きなプレッシャーがのし掛かってきています。
チャイムが鳴らないポジションがL1以外だったら、MEL の適用を認めたのですが。
そして整備作業を続けること十数分・・・・・。「直りました!」 と言いながら、先程の整備士がコックピットへ飛び込んで来たのでした。ホラみろ、やる気になれば直るんだよ!
インターホンが正常に作動する事を確認し、彼がコックピットから出て行こうとする時に、「ご苦労さん」 と声を掛けたのですが、彼の顔が一瞬和んだように見えたのは気のせいか?
整備士だって完全に整備された飛行機を我々乗員に提供したいはず(そう信じてます)。しかしながら定時運航へのプレッシャーだったり、上の方からの、「MEL を適用して、さっさと出発させろ!」 との圧力があったりで、彼らも板挟みの苦しみを感じている筈なんですよ。
ランディング・ライト、
バルブ交換。
FDキャプテン、明けましておめでとうございます!
新年から、事の本質に迫る大事なエピソードを教えていただきましてありがとうございます。
「MELに規定がないから、このまま出発しても問題ない」
この表現、完全に目的と手段が入れ替わってしまった悪しき例ですね。
元々MELというルールを設定したのは、止むを得ない状況の中でも運航を遂行するために、、、ということであったはずで、MELに規定がない=安全ということではなかったはず。
それがそのルールを使ううちに段々、MELに規定がないから大丈夫でしょう、という具合にすり替わっていく。。。
こういう例はどの業界でも多々見られると思います。
そんな中に、最後まで大事なのは「安全運航」ということで決定を貫いてくださったキャプテンの信念に深く感動を覚えました。
我々一般乗客は表面だけみて「出発時刻、遅れているよ、、、」とかぶつぶつ文句をいうことは本当に止めなければいけないと思いました。遅れているには「訳」がある。それが我々の命を守ってくれているのだ、そういうプロセスについてもっと理解を深める必要があると本当に思いました。
キャプテンのような信念を持った良い仕事ができるように、私も今年1年また頑張りたいと思います。
いつも大事なことを教えていただきまして、ありがとうございます。
by 野菜さらだ (2010-01-01 07:50)
明けましておめでとうございます。
いつも楽しく拝読させていただきます。
昨年ドアクローズ後に機材不具合(燃料ポンプ?)がでてしまった便に乗り合わせまして・・・アナウンスは修理→45分後にMEL適用か確認中→1時間30分後に出発したのですが結局は修理できたのかできなかったのかはよくわかりませんでした。
やはり一般の方にとっては修理を持ち越したまま飛行と聞くと不安になってしまうのですね・・・アナウンスされたときの反応は大きかったです。
操縦する側、整備する側、運行を管理する側、色々と複雑な事情が入り混じっているのですね、しかしまずは安全優先、我々もそういう姿勢を感じて飛行機に乗せていただければと思いました(ただ正直機内に1時間半はきつかったですが・・・)
by nakap (2010-01-02 11:12)
今回の事象、興味深く拝見させて頂きました。もちろんPICの判断もそうですが、「不安があります」と言ったチーフ・パーサーもプロ意識の高い方だと思いました。「気をつけてコールライトを見ておきます」とでも言えば出発できたのに、出発が遅れて乗客から文句を言われるのは自分たちなのに、職責を忠実に果たす。
『査察機長』の一幕を見てるような感じがしました。
by NO NAME (2010-01-02 13:44)
明けましておめでとうございます。
同じく、いつも楽しく拝読させて頂いております。
FDさんの仰る通り、安全性と定時性の板挟みでのMEL適用
については難しいjudgeが必要となりますよね。
L1以外であれば、MEL適用して定時性を確保し顧客の信頼を得ることも
できたのでしょうが。
あらゆる可能性を考え、万が一の場合に全力で取り組むことが出来るように、可能な限り不安全要素を排除したFLTがbestですよね!
by てんてん (2010-01-02 21:11)
今年もよろしくお願いします。
このブログ、楽しみにしています。
>彼がコックピットから出て行こうとする時に、「ご苦労さん」 と声を掛けたのですが、彼の顔が一瞬和んだように見えたのは気のせいか?
ここがいいですね。それぞれの場所でプロフェッショナリズムを発揮してベストな仕事をする、それを互いに尊重し敬意を払う。現実にはなかなか難しいところもありますが、私もいつも心がけたいと思います。
by HAL (2010-01-04 22:43)
初めまして、とても興味深い記事ばかりで思わず読み入ってしまいました。
私は国内空港で日系航空会社の地上職をしている者です。
自社便国際線を担当しており、カウンターやゲート業務を行っております。もしかするとどこかでお会いしているかも知れません。
このMELについての記事を読み、改めてMELについて考えました。
安全運航に関わる整備作業なので自信を持って、お客様にお待ち頂く事を案内すべきなのですが、どうしてもゲートでお待ちになられている目の前のお客様と定時出発へのプレッシャーから、SHIP整備が完了するのをMELは適用出来ないのかな…とソワソワしながら待ってしまいます。
入社1~2年の社員(私もまだ2年目です)にはMEL=安全といった認識を持っている者もいると思います。
この記事を読み、何万分の一に起きる可能性のある危険な事態に対しても目を瞑るのではなく徹底的に安全にこだわるプロ意識を、安全運航へ携わる者として再認識しました。
そこで、是非この記事を月に1度社内で行われる小さなミーティングで紹介し、共有したいと思うのですが、よろしいでしょうか?
大変お忙しいとは思いますが、お返事お待ちしております。
by ひまわり (2010-04-01 21:17)
ひまわりさん、
お役に立つようでしたら、どうぞお使い下さい。
by FD (2010-04-02 11:01)
離陸直後に発見したとしたら、あなたはアボートするんであれば整備もそういった認識に近づくと思います。
グレーゾーンは毎回エマーかけるんでしたら、納得の安全意識ですね。
チャイムが装備されたのはいつ頃からで、それ以前はどうしてたのでしょうか?
何重ものバックアップがあるのはなぜでしょうか?それが逆にない系統は?
どう言った認識か気になります。
by 逆もしかり… (2018-11-15 09:21)
コメント、ありがとうございます、
ただし、私には何を仰りたいのかが理解できません。
by FD (2018-11-15 19:29)