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天気が良すぎて着陸できない?! [航空関係]

以前のホーム・ページではご紹介した事件?だったのですが、ブログにはまだ書いてなかったようなので、ホーム・ページ(現在非公開)から転載しました。

天気が良すぎて飛行機が着陸できない?!
当然の常識からすれば、飛行機が欠航するのは天候が悪い時と誰もが考えるでしょうが、そうばかりとは限らないのです。

大気は水と一緒で高い所から低い所、気圧の高い所から気圧の低い所へと流れて行きます。
低気圧は周りから気圧の低い低気圧の中心に向かって大気の流れがありますので、行き場を失った大気は上昇気流となり、雲を発生させます。

bloglowhighpress.gif
一方、高気圧は気圧の高い中心から外へ向かって大気の流れがありますので、大気の薄くなった中心部へ上空から大気を補充するために大気は沈降し、晴天をもたらすのです。

ところが、この晴天をもたらすはずの高気圧があまりにも優勢すぎますと、飛行機が飛べなくなってしまう場合があるのです。

今から25年程前の事、貨物航空で飛んでいた時の話です。
当時最も長い 6泊 9日の NRT → SFO → JFK → ANC → NRT のパターンで、JFK → ANC のフライトでした。

順調に飛行を続け、アンカレッジ空港に向け、進入を開始する少し前の事でした。地上の運航管理者から無線で呼び出しがあり、
「アンカレッジ空港の気圧が高過ぎて、31.00 インチを超えていますので、離着陸禁止になってます。日本からの他社便は全て日本へ引き返しましたが、この便だけは航空局長の特別許可が出ましたので、着陸は可能となっています」 と言ってきたのでした。
そしてその後、整備担当者からは気圧が高い事で不具合の出る可能性のある航空計器の幾つかを知らせてきたのでした。

こんないい天気なのに離着陸禁止!引き返した便がある!お客様には何と説明したのだろう?
全く予想もできない出来事でした。
その時、アラスカ州では北米観測史上最高値の 31.85 インチ( 1078 ヘクトパスカル)を記録、アンカレッジ空港では 31.32 インチ( 1060 ヘクトパスカル)に達していたのです。

ところが進入開始前に入手した ATIS では ” QNH 3100 ” としか言っていません。何で?
これは後で知った事なのですが、米国には [High Barometric Procedur ] と言う、QNH が 31.00 インチ以上の時に適用される特別のプロセジャーがあるそうで、ATIS では 3100 以上の値は報じない決まりになっているのだそうです。

進入許可も “ Cleared for Approach “ と言うだけで、進入方式の指定もありません。後は自分の責任で勝手に着陸してくれと言う事だったようです。
もちろん天気はビカビカの晴天でしたので、全く問題なく着陸出来ましたし、航空機器類に不具合が出ることもありませでした。

飛行機には [Environmental Envelope ] という規程があって、飛行機が離着陸出来る高度の範囲が制限されており、当時は、-1,000 フィート ~ 10,000 フィート の間と定められていたのです。
と言う事は、海面上の高さにある空港なら、30.92 インチの気圧まで離着陸可能となるのですが、この事件があってからは、ボーイングが規程の見直しを行い、現在では 高度 -2,000フィート(QNH 31.92インチ)まで離着陸可能となっております。

大気が寒冷なアラスカだから起きた天気現象なのですが、世界には想像出来ない色々な天気現象があるものだと思い知った次第です。

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コメント 6

なんだかよく解らないです…

標準大気で、29.921inHgが気圧高度0ftだとすると31.018inHgでは -1000ftになるようです。
計器に不具合は出なかったようですが、与圧系統とかは問題なかったのでしょうか?
(航空機の着陸時ではなくて離陸時には少し与圧されるようになっているというような事を聞いたことがあるのですが、着陸時はどうなのでしょうか)
*離着陸禁止になったのは計器の精度が保証範囲外だったからなのでしょうか…
by なんだかよく解らないです… (2011-01-16 20:18) 

皮算用

FD様。いつも楽しく拝見しています。
気圧が高すぎて正常に作動しない機器・・・を想像すると、大気圧からの高度計や速度計(ピトー管)が思いつきます。
高度計の不備は、ILS等の着陸支援装置で代替が可能な予想をしますが、速度計は着陸寸前に、所定の気圧を超えたところで誤差を含む表示をする・・・と言う事態を想像すると、相当の緊張が生じると思います。
実際のところ、どのような計器に誤差発生のリスクがあり、どの計器で表示値の信頼性を担保したのでしょうか。
また、FD様の機だけに「特別な」着陸許可が出たのでしょうか。まさか貨物機と旅客機では、安全を担保するルールに相違があるのでしょうか。この件はFDさんが決断した懸案ではないのですが、想像で結構ですからコメントいただければ幸いです。

by 皮算用 (2011-01-17 18:42) 

FD

高度計や速度計は単純な原理ですので、影響は殆どありませんが、
CADC(Central Air Data Computer)がダウンしますと、
データの補正が出来なくなりますので、高度や速度に僅かな誤差が生じるでしょう。

特別許可が出たのは、単純に燃料が足りず、アラスカ以外の空港まで飛んで
行く事が出来なかったからです。

by FD (2011-01-20 13:58) 

皮算用

FD様。いつもレベルの低い質問に快くご回答いただき、ありがとう御座います。
当初私が想像していたのは、
・ コンピュータを介した計器類は、入力値が想定範囲を超えることでフリーズする可能性がある
・ 従って、単純な原理の計器を優先的に信用する必要がある
・ それでも想定外の気圧に起因し、検量線が狂う可能性がある
・ 例えば速度計に10%程度の誤差が生じると適正な着陸速度のはずが、失速速度になってしまうリスクがある
・ 従って、一定高度より下位では、視界がよいこともあり、計器よりも「体が覚えた感覚」を優先した
という構図でした。全然違いましたね。。。

燃料不足でダイバード不可というのは想定外のオチでした。着陸寸前の段階で着陸禁止を教えてくれる運航支援体制も、ずいぶん冷たい話ですね。土地勘のある運航支援のアメリカ人とかって、超高気圧について教えてくださらないモノなのでしょうか???

by 皮算用 (2011-01-21 17:58) 

FD

着陸速度(Vref)に対する余裕は、失速速度の測定法によって変わってきますが、
23%から30%の余裕を取っています。

詳しくは、ブログの左フレームで「航空用語解説」を選択し、「Vref」の項目を
参照して下さい。

by FD (2011-01-21 21:45) 

皮算用

FD様。たびたびのご返答、ありがとう御座います。
学生時代の不勉強がたたり、サフィックスの付く記号に対し、脳の保護回路が働いてしまう私(涙)、
ゆっくりではありますが、航空用語解説を勉強させていただきます。
まずはお礼まで。
by 皮算用 (2011-01-24 20:31) 

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