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巷に出回る怪しげな情報 [航空関係]

調布での小型機墜落事故に関して、各方面から色々な憶測が出てきておりますが。

まずは、Old fogy さんが指摘して下さったように、元CAだと言う航空評論家秀島氏は、

目撃者が撮影した映像を分析し、「離陸後、エンジン出力が増すべきところで音が大きくならずに消えているように聞こえる。上昇中に何らかの原因でエンジンが止まった可能性が高い」
と述べているそうですが、
747-400のようにエンジンの推力に余裕のある旅客機の場合、国内線では最大離陸推力
-20~30%の推力で離陸していますので、離陸後必要となれば出力を上げることが出来るのですが、常に最大出力で離陸する小型レシプロ機では出来ない相談なのです。また、
「たとえエンジンが止まったとしても、操縦ができた状態であればもう少し飛べたはず」とエンジン以外にもトラブルが起きた可能性があることを指摘している。
とのことですが、離陸直後にエンジンが止まったのであれば「もう少し飛べた」などの指摘は、飛行機を操縦したことのない御仁のたわ言です。
元CAの航空評論家さんとやら、専門外のことに口を挟みますと恥をかくだけですよ。


元747の機長だったという航空評論家のS氏も変なことを言ってますね。

明らかに車輪を格納しつつある動画を見ての解説、
「この飛行機のタイプは浮き上がってから速やかに車輪を格納するタイプ」
「機体を軽くするため、離陸後すぐに格納するべき車輪が残っていることを指摘し、重くなった機体や、暑い環境にうまく対応できなかったとしている」
速やかに車輪を格納しないタイプの飛行機があるとは、初めて知りました。また、
車輪を格納すると、機体が軽くなるとはこれまた怪奇。空気抵抗が減ることは確かですが。
しかし、こんなおかしな事を言うとは考えられませんので、マスコミが曲解して報道したのかも?ところで、
離陸時のフラップの使用についての話題が出ていますが、小型機の場合、滑走路の長さに余裕がある場合が殆どなので、フラップは使用しないで離陸するのが通常でした。離陸滑走距離は長くなりますが、その方が離陸後の上昇率がよくなりますので。1.gifただし、
滑走路長に余裕がない場合は、フラップを使用する、Short Field Take-off を行っていました。故に、旅客機は常に Short Field Take-off で離陸していることになります。
タイヤに速度制限があることも、フラップを使用して離陸する理由の一つなのですが。


作家で航空機に詳しいと言う大石氏は、こんな話をメルマガとやらで述べていました。

「滑走路を走っている途中でパワーが出ないことに気付いた。ところがもうV1を超えて、ひとまず離陸するしかない」
V1とは、双発以上の飛行機が離陸滑走中にエンジンが1基停止したような場合、離陸を中止するか継続するかを判断する速度ですので、離陸滑走中に1基しかないエンジンが停止した場合、離陸を中止するしか選択肢のない単発機には適用されない速度なのです。

航空燃料というのは、ガソリンほど簡単に着火はしないものです。もちろん地上側にも着火の要因はいくらでもあるけれど、もしエンジンを確実にシャットダウンできていたなら、燃料は四散しても、火災は免れていたかも知れない。
レシプロ機の燃料には自動車と同じガソリンが使われていますので、事故機の燃料も当然ガソリンです。この御仁、灯油に近い燃料を使うタービン機と混同しているらしいですね。
こんな与太話を有料で読まされているメルマガの読者諸兄には、お気の毒と言うしかありません。


また、
「墜落した飛行機の離陸時の映像が公開されましたが、離陸滑走距離が異常に長く、離陸後も正常な上昇をせず、機首上げの操作をして失速したことが分かる」
との指摘もありましたが、公開されている動画を見る限り、失速して墜落したかどうかまでは分からないと思いますよ。
墜落=失速 と短絡的に考える人が多いようですが、失速して屋根の上に落ちたのか、グライダーのように滑空しながら屋根を引っかけたのかは、今の時点では不明と言うしかないでしょう。


「離陸しているということは、それまでエンジンに異常がなかったということ。操縦系統が整備不良だったのではないか」とみるのは航空安全コンサルタントの佐久間氏だ。
佐久間氏が指摘するのは、大阪・八尾空港で平成10年に起きた墜落事故との類似性だ。
この事故も離陸後間もない墜落。運輸安全委員会の報告書によると、 整備ミスで操縦系統と補助翼をつなぐケーブルが逆につながり、操縦桿(かん)と小型機の動作が逆になったことが原因だった。
ご指摘のように小型飛行機(YS11も)の操縦系統は油圧などではなく、ケーブルを使用していますが、4日前には問題なく飛行していたとの情報もありますので、整備ミスの指摘は的外れではないでしょうか。毎日毎日分解整備を行っている訳ではありません。
昔の事故を思い出したからと言って、軽々しく類似性に触れるべきではないと考えます。
仮にケーブルが逆につながっていたとしますと、エレベータのつなぎ間違いでしたら離陸できないでしょうし、ラダーなら離陸滑走中に滑走路から逸脱してしまうでしょう。もしエルロン(補助翼)だったら離陸したとたんにひっくり返ってしまいます。
エルロンのケーブルが逆につながっているのに、あれだけの距離をローリングすることなく飛べたとしたら、正に神業的操縦でしょうね。


エンジン出力の設定を間違えたり、機体を上げすぎたりするだけで事故は起きるため、分析には「まだ材料が足りない」
とする指摘もあるようですが、大型旅客機ではその日の気温などによってエンジンの出力設定を変えるのですが、小型機のレシプロ・エンジン場合は常にフル・パワーでの離陸を行いますので、これもピント外れの指摘と言えるでしょう。


機長が事故4日前の7月22日、同じ機体で調布飛行場から飛んだ「慣熟飛行」は、子供らを同乗させ東京ディズニーランド(TDL、千葉県浦安市)上空を旋回するものだったことが31日、飛行場関係者への取材で分かった。実態は「遊覧飛行」だった疑いが強い。
とのことですが、TDL 上空は羽田空港の Positive Control Area になっていて、その下限高度は700ft~1,000ftとなっています。更に、
航空法の「最低安全高度」の規程によりますと、市街地の上空では、航空機から600mの範囲内の最も高い障害物の上端から300m(1,000ft)の間隔を確保することになっていますので、航空法に違反して、かなりの低高度で飛行しない限り、TDL 直上で遊覧飛行することは不可能です。
TDL 上空で遊覧飛行というのはちょっと大げさ過ぎます。
少し離れた江戸川区上空辺りから「遠くに見えるのがディズニーランドだよ」と案内した程度ではなかったのか?だからと言って、調布飛行場では認められていない遊覧飛行が許容される訳ではありませんが。
ただ一つ確かなことは『慣熟飛行』であったか『遊覧飛行』 であったかは、事故原因には直接の関係はないと言うことでしょうか。


小型機は離陸後、数十秒で墜落しており、関係者は「交信する余裕もないまま墜落したのではないか」と話している。
この小型機には、異変が起きた場合に緊急事態を伝えることができる機器「トランスポンダー」が搭載されていたが、操作された形跡もなかった。
あのね、飛行機が墜落するかどうかの瀬戸際に、管制塔と交信したり、緊急信号を発信するのに何の意味があると言うの?地上からは「詳細を知らせて下さい」と言うのが精一杯だろうに。


今日の読売新聞に「離陸前のエンジン点検を怠り、Magneto Check を行わなかった」とありましたが、Magneto Check とは何ぞや?と言いますと、
レシプロ・エンジンには点火プラグがそれぞれのシリンダーに2個ずつ付いた、いわゆるダブル・イグニッションになっています。
通常はスイッチを BOTH 位置にして両方の点火プラグを作動させているのですが、
Magneto Check ではスイッチを LEFTRIGHT に切り替えてみて、エンジンの回転数が僅かに低下すれば、点火装置は正常と言うことになるのです。何故なら、
例えば BOTH からLEFT に切り替えて回転が落ちないと言うことは、元々 RIGHT は作動していなかったことになりますからね。
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カイホ

読売新聞の記事は自分も読みました。
プラグという記述があり、自動車では
もう死語になりつつあるプラグが小型
飛行機の世界では現在でも重要な
チェック項目である事を改めて認識
した次第です。

いつも質問ばかりで恐縮なのですが
キャプテンが表記されている
「マグネット」と読売新聞が表記している
「マグネトー」は別物なのでしょうか?

あるいは同物で発音が違うという事
でしょうか?
お時間のある時、ご教授ください。
by カイホ (2015-08-04 22:00) 

FD

私が間違えました。記憶違いです。

英語的にも、Magnet よりも Magneto の方が正しいですよね。
記事の方も訂正しました。

by FD (2015-08-05 07:40) 

カイホ

ご返信有難うございました。
今後も、おかしな航空評論がありましたら
是非、ビシバシ斬って頂きたいと存じます。
by カイホ (2015-08-05 21:18) 

FD

ありがとうございます。
変な誤解が生まれないよう、指摘すべき点は遠慮なく指摘させて頂きます。


by FD (2015-08-06 16:34) 

くぅ

はじめまして。
時々拝見させていただいています。

私も陸上単発のライセンスを持っていますので、パイロットの端くれとしては、とても残念な事故だったと思います。
そして、調布での小型機を即禁止しようなどという行政の動きは、日本の航空業界の発展をますます妨げるもので、とても残念です。
禁止より、まずは事故防止に何をするかが大事だと思います。

怪しげな情報もマスコミが発してしまうと信じてしまう人が多いというのが怖いです。
by くぅ (2015-08-09 11:00) 

FD

事故が起きたからと言って、直ちに飛行停止だの飛行場廃止だのを言うのは
短絡すぎます。
調布空港の特殊性を考慮した、教育・訓練などが重要でしょう。


by FD (2015-08-09 17:17) 

Oldfogy

警察の捜査が進み!(事故調でないの?⇒怒り)

どうやら、最大離陸重量超過で離陸(?)し、直後失速したようです。

ヨタ話-2(航空評論家S江)

『この飛行機のタイプは浮き上がってから速やかに車輪を格納するタイプ』と言っていますよ。

しかし、今回の事故に限って言えば、『足を上げないほうが良かったかも』と言うMalibu操縦経験者も居ます。Gear upで重心位置が大きく前方に移動します(私のBlogで書いた操縦が難しい飛行機!)。

Stall warningが鳴る中、CGが大きく動けば操縦は大変でしょう。


by Oldfogy (2015-08-11 14:26) 

Oldfogy

小型単発機にはMagnetoが使われる理由:

Alternator1個とBatteryしか電源がありません。Magnetoは電源無しでEngineを回してくれるのでこれほどありがたい機器はありません。

電源がなくなっただけで墜落は嬉しくありませんから(大笑い)

Cessna 172SはStand by batteryを搭載していますが、予備Batteryが無い小型単発機も多くあります。

172SはAlternatorがFailすると、Batteryに自動的に切り替わります。
Batteryの電圧が20V以下になると、Stand by batteryに切り替わりEssential busへ30分間電源が供給されます。この間にNearest suitable airportに着陸です。

昔・昔のその昔、沖縄離陸後1つのCSD を Disconnect しました。

つまり One generator off になったのです。PFは副操縦士で、東京まで行かず大阪に降りますと言ったので「了解、機長判断で東京へ行く」と言って帰ってきました。

Genが1個なくなっても、B747系なら未だ3つも回っているので何も問題はありません。当該FOはB767から移行直後なので「3つ残っている」より「1つ壊れた(B767なら、残りは1つ)」ことを心配したのでしょう。
by Oldfogy (2015-08-11 14:41) 

Oldfogy

翼の王様さん、

小型機の離陸時のFlap使用はFDさんの解説の通りです。

小型機のPOH(Pilot's Operating Handbook=メーカー作成)では、離陸は『Flap 0-10( or 20機種により異なります)』 と記載されているのが普通です。

調布等の小型機専用の飛行場は別として日本の空港の滑走路は概ね2500M以上あります。

小型機の離陸距離は「Takeoff run開始から対地50ftまでとするのは世界共通ですから、離陸距離に余裕があればFlap zero離陸が基本です。

私が学生訓練に使用する福島からCessna 172 で離陸するときはZero flapです。
by Oldfogy (2015-08-11 14:54) 

FD

「この飛行機のタイプは浮き上がってから速やかに車輪を格納するタイプ」
との解説、テレビのテロップの間違いかと思っていましたが、確かに
本人も言ってましたね。ネットで検索しましたら、
「747 の飛行時間で世界最高記録を持つ機長 」とのことでしたが、
何時間乗ろうとアホはアホ。私はカリスマ◯◯が大嫌いなのです。
どの分野であれ、この世にそんな人間は存在しません。

今回の事故に関する私の私見。
例え最大離陸重量超過であろうと、いったん離陸できた訳ですし、
サッカー場上空の動画を見ましても、ある程度の高度が取れていましたので、
柔らかい操縦で水平飛行を続ければ、速度を回復することは出来たと
考えます。エンジンは正常であったとの前提ですが。
滑走路延長線上には高層ビルなどもなかったようですし。ただし、
柔らかい操縦が出来るのか、ギクシャクした操縦しかできないのかは
天賦のものですから、何とも言えませんが。もし、
上昇しない機体に慌てて、操縦桿を強く引いてしまったのであれば、
失速した可能性がありますね。

私の訓練生時代。操縦が硬いと指摘された仲間の一人が、手袋の中に
画鋲を忍ばせて、操縦桿を強く握れないようにしていました。
人の天性の能力には違いがあるのもだと認識したエピソードでした。

また、『足を上げないほうが良かったかも』と言うMalibu操縦経験者も居ます。Gear upで重心位置が大きく前方に移動します。
とのことですが、この機体のメイン・ギアは真横に格納されるタイプですし、
ノーズ・ギアは後方へ格納されるようですので「重心位置が大きく前方
に移動」と言うのは疑問に思いました。乗ったことがある人が言っ
ているのであれば、その通りかもしれませんが。

by FD (2015-08-11 20:02) 

カイホ

Ofキャプテン、FDキャプテン 詳細なご説明有難う
ございます。
そうですか、「滑走路に余裕がある場合の
小型機ではフラップゼロの離陸が通常」
なのですね。

随分昔ですが、自衛隊のF4パイロットが
機体がガタガタ振動する失速時の対応で
「若いパイロットは操縦桿をどうしても引いてしまうが
この限界時で操縦桿を 「突く」 ことができるか否かが
生死を分ける」 とコメントしていました。

FDキャプテンが記載されているような「柔らかい操縦」
=操縦桿を突く
はこの若いパイロットにはできなかったのかもしれませんね。

by カイホ (2015-08-11 20:39) 

FD

キザな言い方になってしまいますが、「柔らかい操縦」とは、
操縦桿に伝わる微妙な圧力の変化を感じ取って、機体が何を欲している
のかを読み取る能力と操縦技術だと考えます。

う~ん、「操縦桿を突く」と言うより、優しく押してやるでしょうか?
戦闘機と旅客機とでは微妙な違いがあるかもしれませんが。


by FD (2015-08-11 21:27) 

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