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霧には勝てない? [航空関係]

その日は福岡からの二便目の出発機として羽田へ向かう予定だったのですが、福岡空港濃霧のため、大幅な遅延が発生してしまったのでした。

宿泊していたホテルからタクシーに乗り、福岡空港に着いた時には何の問題もなかったのですが、飛行機に乗り込んで準備を終え、乗客の搭乗が始まった頃、異変?が始まったのでした。

コックピットの窓から外を見ますと、いつの間にか霧が発生しており、見通しが利かなくなって来ているではありませんか!しかも霧は徐々に濃くなっているようで、隣のスポットに駐機している飛行機でさえ、薄ぼんやりとしか見えなくなって来ています。
そうなりますと、管制通信も大混乱?我々の便は乗客搭乗中でしたので、まだスポットにとどまったままだったのですが、すでに7機の飛行機がスポットを離れ、滑走路に向かう途中で立ち往生している状態となっていて、管制と飛行機との切迫したやり取りが続いています。

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こんなモノではなかった、もっと深い霧でした。

初便の飛行機は、何の問題もなく離陸して行きましたので、如何に急速な霧の発生だったが分かります。

離陸することができる最低の視程またはRVRが、空港ごと航空会社ごとに細かく規定されていますので、管制官が飛行機に盛んに聞いていました。
「◯◯◯便、RVRが何メーター以上になれば離陸可能でしょうか?」
通常はルート・マニュアルを見ればすぐ分かるようになっている筈なのですが、この日の福岡空港の場合はちょっと厄介だったのです。
工事関係のNOTAMが発行されており、それによりますと、
『滑走路中心線灯の一部が消灯しているため、着陸のための最低気象条件には影響はないが、離陸に関しては中心線灯不作動のテイクオフ・ミニマが適用される』

こうなりますと、ルート・マニュアルだけでは判断できなくなりますので、オペレーション・マニュアルまで引っ張り出す羽目となってしまったのでした。
コックピットの本棚?からオペレーション・マニュアルを出してきて、カンパニー・ミニマのページを開き、中心線灯不作動時のミニマを調べますと・・・・・
滑走路灯、滑走路中心線灯のどちらかが運用している場合、タッチ・ダウンRVRのみが観測・通報されていればよく、必要なRVR値は600m以上となる。成る程[ひらめき]

さっそく、「我々のテイクオフ・ミニマは600メーターです」 と管制に伝えますと、さっきは400mと通報していたどこかの飛行機が、「訂正します、我々も600メーターです」 と言っておりました。

ところが今度は、「ランウェイ34側のRVRは何メーター必要ですか?」 と聞いてきたんですね~
当時は弱い南風が吹いていましたので、滑走路は16を使っていたのですが、福岡の滑走路には両端にRVR観測機器が設置されていますので、16側と34側両方のRVRが観測され通報されていたのです。

適用する必要のないRVRが観測されている場合、その値はゼロでもよいのでしょうか?
否!離陸・着陸に係わらず、観測されてはいるが、適用する必要のないRVRでもその値は、
200m以上必要である。これが大原則なのです。

16側、タッチ・ダウンRVRの観測値の回復は遅れていたのですが、実は天候が回復していく過程で、16側RVR350m、34側750mの時がありましたので、この場合16からの離陸はテイクオフ・ビロウのために不可能ですが、34からの離陸は可能だったのです。
もっとも、ほんの数分間の出来事でしたので、大勢に影響はなかったのですが。


スポットを離れてしまった飛行機には様々な事情があるようで、

「このままエンジンを回し続けていると、必要な燃料搭載量を下回ってしまうので、あと30分しか待てない」

「地上ではトイレが使えないトラブルを抱えているので、長くは待てない」

あらあら大変だ!我々の便はドアを閉めて、ボーディング・ブリッジを離した状態でしたので、客室の空調のためと電源確保のため、APUは回していたのですが、燃料の消費は最小限で済みますので、燃料に関する心配は要らなかったのです。
-400が地上で1時間、4発のエンジンを回し続けていますと、約7千ポンドの燃料を消費します。
APUのみの場合は、その約1/10、660ポンドの消費となります。

ところが、会社無線で新たな要請が来たのでした。
「羽田からの初便が熊本へダイバートしましたので、乗客搭乗のまま燃料補給を行って、折り返し便に搭乗予定のお客様をこの便に乗せたいのですが、キャプテンの判断は如何でしょうか?」

搭乗していた乗客数は350名程でしたので、あと200名は搭乗する事ができるのですが、機体重量が増加するため、飛行中に消費する燃料も約4千ポンド増加してしまいます。
そのため、乗客在機のままで燃料補給をしたいという訳なのですが、これがちょっとばかり厄介なのです。
普段から機体整備や機内の清掃を行いながら燃料補給をしていますので、それほど危険な訳はないのですが、乗客在機の場合、火気厳禁を徹底したり、シート・ベルトを外させたり、消火器を配置したりで、そう簡単には行えない決まりになっているのです。

しかも、その頃になってきますと、日照と共に霧も薄くなって上空の青空が透けて見えるようになって来ていましたので、間もなく離陸可能となりそうです。
そこで私の判断を会社無線で伝えました。「燃料補給を行って、次の便の乗客も搭乗させるとなると、更に1時間以上の遅れが予想されるので、このまま天候の回復を待って出発する」

結局1時間半の遅れで羽田に到着しましたが、やはり霧には勝てません。

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コメント 5

昔少しだけお世話になった者です

たまたま乗り合わせておりました。
霧中お仕事お疲れ様でした。
すごい霧でした。さあ出発という頃から次第にひどくなりました。
気流の関係で多少の揺れはありましたが、終始快適な旅でした。
キャプテンの便に乗ることを夢みておりましたが、ついにかないました。
お人柄の溢れる操縦、素人ながら感じられました。
ランディングは感動いたしました。
これからも空の安全をお守りください。
失礼いたします。






by 昔少しだけお世話になった者です (2009-11-29 22:19) 

yasaisalad

FDキャプテン、
まさに「一寸先は霧」状態の中のフライト、本当にお疲れさまでした。
乗客として乗っているだけでは、コックピットの中でどれほど瞬時瞬時の意思決定のプロセスが行われているか、全くみえませんが、こうやってお話を伺いますと本当に本当に感謝の気持ちで一杯になります。大変な状況の中でのフライトがご無事に終わられましたこと、本当に良かったです。

加えて、上記のコメントの方のコメントに二重に驚きです。
そういうことって、本当にあるのですね。

いつの日か私もFDキャプテンの飛行機にめぐり合うことができますようにという思いを込めて。
by yasaisalad (2009-11-30 10:40) 

FD

昔お会いした事がありましたか?
先日のフライト、残念ながら私の操縦ではありませんでした。
コーパイに操縦を担当させまして、キャビン・アナウンスを行ったのも彼でした。


天気がよくて機体の故障もなければ、フライトも楽ちんなのですが、お天気が悪かったりしますと、色々な思惑や判断が必要になってきます。
やはり一番の難題は、乗客の方の問題が絡んできた時でしょうか。
機体の故障ですと、アブノーマル・チェックリストで対応できますが、人間が絡んできますと、チェックリストという訳にはいきません。


by FD (2009-11-30 23:58) 

昔少しだけお世話になった者です

バイクを降りて、身を引いたものです。キャプテンの記憶にも残らない程度の者です。
 ソフトランディングを狙ってフレアの時間を長めに取られたのかと思いました。やはり素人考えでしたね、でも心地よい着陸でした。
機長アナウンスを待っていたのですが、すべてコーパイさんでしたね。
少し緊張されておられたようでした。
たしかに空席が目立ちました。待機時間に色んなやり取りをされていたんですね。お疲れ様でした。
 後身の指導大変かと思います。キャプテンのような機長が増える事をお祈り申し上げております。
失礼いたします。
by 昔少しだけお世話になった者です (2009-12-01 08:50) 

kingair350

FDさん、こんにちは、すいません、。日記を拝見していてよく分かりきれなかった事があるのですが、結局最後の文末では、次の便の乗客200名も乗せたのでしょうか? しかしそうなりますと追加分で燃料を積みます必要があったのですよね、、、、ちゃんと自分も最初から読み直して見ます、もしよろしければ教えてください。
by kingair350 (2009-12-19 12:09) 

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