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積乱雲の壁が!着陸できるか? [航空関係]

フライトがありませんと、ブログに書き込むネタ(教育材料)にも不自由するのですが、取りあえずのツナギ?として、以前ホームページに書き込んでおりました、「フライト日誌」 の中でも、特に厳しい決断を迫られたフライトの話などを、記憶をたどりながら紹介してみたいと思います。(この話は未公開のはず)

今は梅雨の真っ盛りですが、梅雨が終わりましても、パイロットを悩ませる真夏の積乱雲の季節がやって来ます。
何年前だったでしょうか?そんな真夏の一日、強い前線が関東地方を通過し、強風によって千葉港に設置されていた大型クレーンがなぎ倒されると言う事件も起きたのですが、その時私は、千歳から羽田へと向けフライトをしておりました。

記憶によりますと、その時は私が右席に座り、B6から-400へ復帰訓練中のキャプテンが、左席に PF として乗務しておりました。
私は右席で PNF(現在は PM)としての業務を行いながら、PIC としてフライト全般の責任を負う立場にあった訳です。

梅雨時や夏場の積乱雲から逃れる方法として最も確実な方法は、4万フィート近くまで上昇してその上を飛び越えるか、あるいは大きく迂回して積乱雲のない空域を通過する事なのですが、離陸後の上昇中や着陸のための降下中に積乱雲に遭遇してしまいますと、ちょっと厄介な事になってしまいます。
着陸前には当然のごとく高度を下げる必要がありますので、積乱雲の上を飛び越える事はできませんし、大きく迂回していたのでは滑走路から遠ざかるばかりで、いつまで経っても着陸する事ができませんからね。

この日のフライト。千歳を出発する時には羽田の天候も良好でしたし、天候が悪化する予報も出ていませんでしたので、通常のように成田を代替空港とし、燃料も通常の搭載量で出発したのですが・・・・・

順調に巡航を続けていますと、会社からACARSを通じて羽田の気象情報が送られてきました。
「ATTENTION PIC・・・・・」
その情報によりますと、「強い雷雲を伴ったスコール・ラインが羽田に接近しており、到着予定時刻頃に羽田上空に達する恐れあり。その場合、代替空港の成田も着陸できない事態が予想されるので、代替空港を名古屋として羽田へ向けフライトを続けてくれ」 との事でした。

フライト前にチェックした天気図や最新の気象レーダー情報、空港の気象予報等によっても予想できなかった悪天候でしたが、読みが甘かったと反省するしかありません。

スコール・ラインが羽田に達する前に着陸できるかどうか、厳しいタイミングでしたが、航路上でスコール・ラインの通過を待っていたのでは、燃料が不足してしまうでしょう。
ここは羽田へ向けフライトを続けるしかないと判断し、羽田進入管制所のレーダー誘導を受けながら着陸に向け降下を開始しました。
すでに強い雨が降り始めており、地上の風は南からの強風。視界も当然悪くなって来ておりましたので、使われていた進入方式は ILS Rwy22でした。

bloglineechohaneda.gif
飛行機は TLE(阿見 VOR)を通過し、房総半島の上空へと出てきました。
機上の気象レーダーで見てみますと、真っ赤になった雷雲の塊が ILS Rwy22 の進入経路上、という事は江戸川区の上空辺りまで達しています。すでにスコール・ラインは羽田上空に達していたのです。
進入管制所が聞いてきました、「進入を継続するか、それともホールドするか?」 と。
この時の PF の判断は、スコール・ラインが通過するまで房総半島上空でのホールド(緑線)だったのですが、スコール・ラインは南東の方向へ向かって進んできています。
房総半島上空でホールドを続けていたのでは、雷雲に追い立てられるようにして、東へ東へと逃げる事になるでしょう。そして、そのうちには成田空港も着陸できない気象状態となり、房総半島東の太平洋上で進退窮まる事態に陥る危険性があります。
太平洋上空で燃料が足りなくなりますと、スコール・ラインを強行突破して羽田は向かうしか方法がありません。

それに、羽田に着陸できない場合、向かわなければならない代替空港は名古屋なのです。
その為には、スコール・ラインの南西方向へ抜け出す必要があるのですが、この後どうやってスコール・ラインを抜ける?

訓練中の PF の判断に介入する事は避けたかったのですが、私には PIC としての責任があります。
そこで決断しました。このまま高度を下げながら進入を続け、ILS Rwy22の最終進入高度である2千フィートまで降下し、スコール・ラインの下にもぐり込んで雷雲をやり過ごし、滑走路22への着陸を試みる。
そして着陸できなかった場合には、進入復行を行って PQE(館山 VOR)方向へと向かえば、スコール・ラインの南西側へ出る事ができる。
そしてそのまま代替空港の名古屋へ向かえば、燃料的にも問題ない。

雷雲の下を低い高度で通り抜ける事は、雷雲をやり過ごす一つの方法でもあるのです。
雷雲の直下ではダウン・バーストなど、激しい気流の変化がありますので、十分な注意が必要ですが、躊躇している時間はありません。進入管制所へ、「このまま進入を継続する」 との判断を伝えました。

雷雲の下は土砂降りの雨、飛行機と言うより潜水艦に乗っているようでした。

” One Thousand ”
” No Flag ”
” Five Hundred ”
” Stabilized ”
” Approaching Minimum ・・・ Runway Insight ”
” Landing ”

滑走路22に対して、左前方からの強い横風が吹いていましたが、何とか着陸する事ができました。
誘導路へターンしながら後ろを振り返りますと、我々に続いてアプローチしていた
福岡からの-400も無事に着陸してきました。『お互い大変だったね』

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しゅん

7月からの乗務復帰おめでとうございます!
FDさんの「フライト話」これからも楽しみにしております。
by しゅん (2010-06-20 16:14) 

Hiro

FDキャプテン復帰決定おめでとうございます。
お嬉しさも中くらい といったところにパイロットの大変さが
垣間見れた気がします。
フライトの話しを楽しみにしております。

iPadで書いているのですがまぁまぁ大変です。
でも、iPod touchに比べればかなり効率的です。
by Hiro (2010-06-20 22:57) 

トメ

復帰決定、何はともあれおめでとうございます。

過去の面白いお話が期待できそうですね!楽しみにしております。

by トメ (2010-06-21 19:01) 

Hide

7月から復帰、おめでとうございます!
でも「再び緊張の日々」というお言葉に、
お仕事の大変さを感じます。

by Hide (2010-06-22 00:56) 

アドマンSFC

無事復帰!おめでとうございます。
また、ご無理のない程度でのBlog更新を楽しみにしております。
暫くB747-400に搭乗していないなあ…。
by アドマンSFC (2010-06-22 17:01) 

GSゆれゆれ

RJFF,ATCです。いつもブログ拝見させて頂いています。
先日、穴守の乗員センターにてー400のsim体験させて頂きました。普段どんなに緊張される業務なのか身をもって知る事ができました。
しかし、他と比べて、B4はパワーが違いますね。余裕のある、とても素晴らしい飛行機だと思います。少なくなっていくのが残念です。

復帰おめでとうございます!
by GSゆれゆれ (2010-06-23 22:31) 

B767

復帰おめでとうございます。

素人ながら飛行機が好きでいつもブログを拝見させてもらってます。

また、辛口なのでFDキャプテンの厳しさが伝わってきて大変興味深いです。

これからも拝見させてもらいますのでよろしくお願いします。


話は変わりますが、you tubeでこんな着陸を見つけました。
計算の上の着陸なのか、無理やり着陸したのかが気になります。
お時間があれば、ブログで扱ってもらえれば幸いです。
http://www.youtube.com/watch?v=N05F_egpiWw&playnext_from=QL


by B767 (2010-06-27 18:58) 

FD

色々ご心配いただきまして、ありがとうございました。

香港の着陸、計算間違いでしょう。
どこかでゴー・アラウンドすべきだったと思いますが、なんとか着陸させたいと言うのがパイロットの本能ですから。
by FD (2010-06-28 16:18) 

B767

お返事ありがとうございます。

胸のつかえが取れました。
by B767 (2010-06-28 22:55) 

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