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最後のシックスマンス・チェック [航空関係]

永いチェック漬けの生活もこれにておさらば、シミュレータによる最後のシックスマンス・チェックを無事に終える事が出来ました。

シックスマンス・チェック。
テレビ番組なら、「この厳しいチェックを半年に一度行う事により空の安全が保たれている」 と持ち上げるところでしょうが、実は半年に一度ではなくて、一年に一度なのです。
何故かと言いますと、LOFT と呼ばれる実運航を想定したシミュレータ訓練が年に一度行われているのですが、その訓練を終えている場合、シミュレータによるチェックは年に一度でよいと航空局が認めているからなのです。その他に、同じく年に一度のルート更新チェックも受けなくてはなりませんが。

シミュレータによるシックスマンス・チェック。落とすためのチェックではありませんので、
メチャクチャな状況設定には出来ません。そこでチェッカーもグッと我慢、ある程度決められたパターンに沿ってトラブルを発生させ行くのです。

blogaftv1enginefail.jpgV1

エンジン・フェイル!

滑走路が見えていますので、ラダーを使って機首の偏向を止め・・・

VR (ローテーション)

V2


これがV1直後ではなく、滑走路を離れて雲の中に突入した途端にエンジンが停止しますと、
前方は真っ白な雲の中、機首の偏向に気付くのが遅れてしまうかもしれません。
しかし、決められたパターンから大きく外さないのは、チェッカーも、『どうか失敗をしないでくれ』 との思いで見ているはずですので、あまり違った状況にはしたくないのでしょう。

そこで提案。半年に一度のチェックとしてではなく、訓練として行えば、時間的な制約は当然
あるものの、あらゆる状態を想定した訓練を行う事が出来ますので、パイロットの熟練度をより一層高める事が出来るのではないかと考えるのです。「失敗から学べ」 と言う格言がありますが、チェックでは失敗は許されません。
あえて厳しい状況にしてくれるよう、リクエストする事も可能になりますし。
航空局は絶対に認めてくれないでしょうが。

以前のシックスマンス・チェックで、四つある油圧システムのうちの二つが同時に失われるトラブルを入れられた事がありました。通常は一つの油圧システムまでで止めておくのが普通ですので、『これはお遊びでやってるな』 と理解して対処したのですが、貴重な経験をする事が出来たと思っております。
私は1・4フェイル、相方は2・3フィイルだったのですが、どちらの方が難しいと思われますか?

1・4の場合、ギアとフラップを油圧システムで下ろす事は出来ませんが、オルタネート・システムを使って、時間さえ掛けてやれば問題を解決出来ますので、それ程難しくはなかったのですが、2・3の場合、オート・パイロット、スタビライザー・トリムが使えなくなりますので、とにかく難しくて、相方は悪戦苦闘をしておりました。
この事は頭では理解出来ていても、実際にやってみませんと、なかなか実感出来ないものなのです。

シックスマンス・チェックの内容に関しては、航空局からの指導があるのですが、局の担当者が代わるたびに内容も変えられてしまうとの噂も聞こえて来ておりました。
そして今回のシックスマンス・チェックでも、その方針変更の余波をまともに受けてしまったのでした。
最後のシックスマンス・チェックだと言うのに。
今年度からの方針変更で大きく変わった点は、シミュレータ・チェックの全般にわたって実運航を想定して行うと言う点でして、例えばエンジンが故障して出発空港へ引き返すような場合には、キャビン・クルーとの連絡やキャビン・アナウンスなどもチェックの評価対象にすると言うのです。

今回のチェックでも実運航にならって、羽田を離陸し千歳へ向かう便との想定だったのですが、離陸直後にギアが上がらないトラブルに見舞われましたので、羽田へ引き返す事にして天候をチェックしましたところ、34L/Rの ILS が故障していて、行われていた進入方式は、
VOR 34Lから16Rへのサークリング・アプローチとの事でした。
もしこんな状況が実運航で起きたなら、何処かで1時間程ホールドしながら、地上の整備などとも打ち合わせを行い、油圧システムでギアを下ろすか、オルタネート・システムで下ろすかを慎重に判断します。
ところがシミュレータでは、後には他の訓練なども控えていますので、時間内に終わらせようと急がされてしまうのです。

仕方ないので、VOR34Lから16Rへのミニマム・サークリング・アプローチを行う事にしました。

blogvor34lfinal.jpg
VOR34Lへの最終進入コース、34Lの進入灯が見えてきました。

bloghaneda16rfinal.jpg
太田卸売市場を眼下に見ながら、16Rのファイナル・コースへと向かいます。PAPI も見えてきました。

しかしですね、羽田空港でこのようなアプローチが行われる事は絶対にあり得ません。
こんな状況になったら、羽田のハブ空港としての機能は殆ど失われてしまう事でしょう。
あり得ない状況設定にして、航空局の必須科目を無理矢理やらせる。どこが実運航に沿ったチェックだと言うのよ。
シミュレータでは操縦技倆とシステム・トラブルへの対処能力のみを対象としてチェック(訓練)を行うのが妥当だと思いますよ。

拷問箱?とも言われるフライト・シミュレータですが、もう乗ることもないかと思いますと、
少し寂しいような気もして来るのが不思議です。

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TDM850

最後のシックスマンスチェックを書いていただいていた今,
タイムリーにも「査察機長」を読んでいました。
小説に出てくる宮田竜太郎は,「ドゥカティという名の犬で,
筑波のコースを160キロで散歩中に転んだ」そうです。
なぜか,FDキャプテンを思い出してしまいました。
元機長の小説も面白いのですが,このブログはもっと面白いです。
「最後の・・」がとても寂しいです。

by TDM850 (2011-05-22 23:14) 

かなぴ

航空局もお役所ですからねぇ。
まぁ、悪気はないのでしょうけど、本当の実態がわかった方が内容を決めることができないこのお国特有の事情がモロに出ているのでしょうね。

担当部署は、それなりにいろいろと思い悩んでいるのでしょうけど、
慣例や、縛り、果ては融通の利かない(効かなくなるとしか思えない)制度に縛られた上で、最大限有効な方法で審査を行おうとしているのでしょうね。

まぁ、やり方が妥当かどうかは別のお話で(笑)

何はともあれ、パスされてご苦労様でした。
あと少しですが、がんばってください。
応援しております。
by かなぴ (2011-05-23 11:58) 

アドマンSFC

最後のシックスマンスチェック、お疲れ様でした。
長い間、本当にお疲れ様でした。

あと6ヶ月で-400での本当のラストフライトになるんですね。
ご卒業までに、是非乗務便に搭乗させて頂きたいのですがねえ…。夢のまま終るのですかね。(-400が関西に中々就航して頂けず、今は旅客の多いOKA便ですしね~)

「査察機長」…私も拝読致しましたが、FDさんがモデル?と言う件もありましたね。

シックスマンスチェックと訓練…PILOTの方にとっては大変でしょうが、お役所の顔を立てる?チェックと勉強会と称した「訓練」双方実施するのは(されていればすみません)如何でしょうか?やはり大変ですよね。
by アドマンSFC (2011-05-23 19:36) 

FD

木登り名人が、高い木の上から降りてくる弟子に向かって、もうちょっとで地面
にたどり着く時になって初めて、「心して降りよ」と注意したと言う説話を聞いた事
があります。
最後まで油断するなとの説話でしょうが、この事を戒めにして、あと10回にも満たない
フライトになると思いますが、心して飛びたいと考えております。


「査察機長」の出版前に、専門的な内容について意見があれば聞かせてくれ
と言う事で、原稿を見せてもらったのですが、「ドゥカティ云々・・・」を見て、やられた!
と思いました (笑)

by FD (2011-05-24 21:44) 

トメ

FDさんこんにちは。

シミュレータの画像ですか?片手操縦で撮影されたのかな?
な~んか気になる画像ですね~!
あと10回かもしれませんが、ベストなフライトを更新してくださいね。

8月までですか?
by トメ (2011-05-25 11:51) 

FD

どうやって撮影したかは、「秘密」 と言う事にしておいて下さい。
種明かしはしない方が楽しめる事もあると思いますので、

by FD (2011-05-27 18:28) 

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