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止まるべきか行くべきか・・・ [航空関係]

Go-Around の話題が出たところで、私が訓練生だった頃の失敗談を思い出しました。
パイロット稼業の始まりは、セスナC150での飛行訓練だったのですが、最初の苦労は自動車運転の癖から抜け出せない事でした。まずは、地上滑走中の方向転換。
軽飛行機の場合、ノーズ・ギアと連動しているラダー・ペダルで方向転換を行うのですが、自動車の癖が出てしまって、操縦桿を回して曲がろうとしてしまうのです。
そこで教官からのアドバイス。「操縦桿から手を離して、腕を組んでろ」 確かにこれは有効でした。神経がラダー・ペダルに集中できますので、上手く曲がる事ができたのです。

も一つの問題が、スロットル・レバーでした。セスナC150のエンジン・パワー調整は、昔の自動車のチョーク・ノブのように、柄の丸いドライバーが計器板から突き出ているような形状だったのですが、チョーク・ノブの場合は、手前に引く事によりチョークが働き、同時にエンジン回転が上がるように設計されています。
ところが、飛行機のスロットル・ノブの場合は全くの逆でして、手前に引けばアイドル回転となり、一杯に押し込みますとフル・パワーとなるのです。

その日は教官を乗せずに単独でのタッチ・アンド・ゴー訓練を行っていました。
初ソロが終わった後は、自信をつけさせるためでしょうか、ソロ・フライトを行う機会を3回に1回ぐらいは与えられていたのです。
双発機の場合、エンジンが1発不作動になった時の片肺飛行が重要な訓練科目となるのですが、単発機の場合は、エンジンが停止してしまいますと飛行継続が不可能となりますので、不時着に適した場所をいち早く見つけ出して、その場所(例えば河原とか)まで滑空させながら、飛行機を安全に不時着させる事が求められているのです。
ただし、実際に河原に不時着する訳には行きませんので、180 SPot Landing と呼ばれる、滑走路を不時着場所に仮定しての模擬訓練を行うのです。その方法とは、

blog180spotlandingif.gif
図のように滑走路の接地点標識のアビーム(真横)でエンジンをアイドルとし、その後は滑空を続けながら滑走路上へと着陸させるのです。
ただ、赤線のように滑走路から遠く離れてしまいますと、滑走路にたどり着けなくなって万事休す、対処の方法がなくなってしまいます。そんな時、無理に機首を上げて降下率を減らそうとしますと、同時に速度も減って失速してしまいますので(正確には失速させてしまう)、滑走の手前で敢えなく墜落となってしまうでしょう。もちろん模擬訓練ですので、そんな事は起き得ないでしょうが。
この場合の正しい対処法は、とにかく高めに飛行機を持ってきて(緑線)、最後の最後、サイド・スリップと言うテクニックを使って、速度を増やす事なく降下率を増加させ、滑走路の接地帯まで飛行機を持って行くのです。

解説が長くなってしまいましたが、その時の飛行時間は20時間そこそこだったでしょうか。
いつものようにアビームでパワー・アイドルとし、滑走路へと向けて旋回して行ったのですが、どう言う訳かフライト・パスがとんでもなく高くなってしまったのです。
なぜそうなったのかは分かりませんでしたが、何とか滑走路内には着陸できそうでしたので、そのまま進入を継続したのですが、Go-Around する事など全く頭に浮かばなかったと言うのが正直なところだったのです。

接地点は大きく延びてしまったのですが、1,200メーター滑走路の中間点付近に着陸する事ができましたので、本来なら難なく滑走路内で停止できるはずだったのですが、ブレーキを掛けてもタイヤがロックしてしまい、キィーキィーと悲鳴を上げるばかりで、減速してくれる気配が全くなかったのです。
「何故だ!何故だ!」 と、頭の中で思考が回転するのですが、理由が思い浮かびません。
訳が分からないまま滑走を続けていますと、滑走路の末端がどんどんと迫ってきます。「このまま飛び出すのか」 と思った一瞬の後、ハッと気付いたのでした。
「エンジンが完全にアイドルになっていないのではないか?」 と。もしそうであるのなら、フライト・パスが高くなってしまった原因も説明がつきますし、着陸後も揚力が残っていて車輪に十分な荷重がかからず、ブレーキが効かないのも当然の事です。

「よしっ、分かった!」 とばかりに、すかさずパワーをアイドルにしようとしたのですが、ここでまた自動車の癖が出てしまい、再び大ポカを犯してしまったのでした。
自動車のチョーク・ノブの場合は押し込みますとアイドル状態となりますので、スロットル・ノブをチョークを戻す感覚で思わず押し込んでしまい、エンジンがフル・パワー状態となって、飛行機は滑走路末端へと向かって勢いよく加速して行ったではありませんか!この期に及んでも、Go-Around には考えが及ばず、とにかく止まる事にしか考えていませんでした。
しかし、最後には冷静さを取り戻し、スロットル・ノブを手前に引く事により、あっけなく飛行機を停止させる事ができたのでした。
教官はハラハラしながら見ていたのでしょう。後で、「何をやってたんだ!」 と叱られました。

文章にしてしまいますと、長い時間のように感じられますが、全ての事は数秒間のうちに起こった出来事だったでしょう。
着陸を継続するか、Go-Around するか。離陸を継続するか、中止するか。決断は一瞬のうちに、しかも間違いなく行う必要があるのです。パイロットが最も緊張する瞬間だと言えます。

コメント覧で ILS アプローチやオート・ランドの話をしておりますと、昔の事を少しずつ思い出してきました。
人間て、つまらない事を覚えているものなんですね。
B747のローカライザー・アンテナはレドームに取り付けられているのですが、私の記憶によりますと、B727では垂直尾翼に取り付けられていました。となりますと、
blogcrab747vs727.gif
横風着陸の時のローカライザーの中心線と機体の位置関係は上図のようになるはずです。
私の記憶違いでなければ。
747と727。どちらの方式が優れているのでしょうか?私は727の方が好きですね。
何故なら、少しでも風上側に居たいので。



民主党内では耳を疑うような人事が行われたらしい。何と!
鳩山由紀夫を外交担当の、菅直人をエネルギー担当のアドバイザーに任命したそうですが、どう考えてもブラック・ジョークとしか言いようがありません。
この人事を主導したのが、例の輿石東幹事長。そう言えば、一川、田中の両防衛大臣の任命をごり押ししたのもこの方だそうですが、全くもって政治的センスの欠片もない御仁のようですね。何しろ、
「なぜ外国人からの政治献金が禁止されているのか承知していない」 と言い放った前科がある方ですので。
民主党と言うコップの中をかき回すだけの政治屋。この人の限界がかいま見えています。
やはり、前回の選挙で落選すればよかったのです。山梨県教職員組合の全面的バック・アップを受けて、やっと当選したようですが、これって、いま沖縄で問題になっている公務員の選挙活動ではないのかね?

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カイホ

人間はマシンではありません。間違えもするし、忘れていた といった事も多々あると思います。その事だけを責めても進歩がないと思うのです。
今回のインシデントでは徹底的な原因究明と再発防止が急務と考えます。

自分は仕事柄、現場で瀕死の方々や数々のご臨終(自殺・事故死を含む)に立ち会ってきました。その度ごとに、二度と繰り返さない為に今自分達ができる最大の行動は何か・・・。と考えるのです。

明日からキャプテンお勧めの「ゆこゆこネット」に初登録し、箱根に銀婚式ツアーに行ってきます。結果はまた報告いたします!。
by カイホ (2012-02-09 22:40) 

皮算用

昔の丘珠では、YS11の着陸の際、時々サイドスリップで軸線を合わせる姿を見られました。私もラジコンで挑戦したのですが、ラジコンの場合ラダーとエルロンの干渉が実機と異なる可能性もあり、上手にサイドスリップできた試しがありません。
「20飛行時間程度の経験でサイドスリップを・・・」と記してありますが、サイドスリップは相当早くに学ぶ技術なのでしょうか。

優秀な人は物事の本質を見抜くのが早く、かつ的確ですよね。今回の件、国民と民主党の関係よりも、民主党内の貸し借りの重要度が高いと判断したのでしょう。

by 皮算用 (2012-02-10 13:03) 

FD

失敗に学ぶ。
あらゆる分野で心掛けるべき事でしょうが、民主党政権はその心掛けも
ないようですね。
重要な会議の議事録を取っていなかったとか。これでは学べません。

箱根・伊豆方面と言えば、そろそろ早咲き桜(河津桜)の季節ですね。
今月末に予約を入れているのですが、今年は遅れるとの情報もありますので
どうなりますか?


単発機でソロ・フライトに出ると言う事は、エンジンが故障した場合
訓練生が誰にも頼らずに対応しなければならない事になります。
サイド・スリップの技術は必須の科目だったのでしょう。

by FD (2012-02-10 22:11) 

カイホ

女房殿が前から泊まってみたかったという箱根宮ノ下の「富士屋ホテル」に投宿しました。

ダイレクトの予約では満室でしたが、「ゆこゆこネット」でみてみましたら、
予約可能な上に夫婦2人で3千円近くもお安くなり、「ゆこゆこネット」
オリジナルサービスでアップルパイもご馳走になりました。初登録で利用しましたが今後もまたお世話になろうと思います。

お部屋は広く、レトロな感じで風情があり、大浴場がないのでお風呂好きには少し寂しいですが、食事(洋食)はとてもおいしかったです。

いつもは飛行機か車が多いのですが今回は小田急電車にて登山鉄道のスイッチバックも経験し、帰路は小田原駅近くの「だるま 料理店」で10分ほど並んで、お寿司と天麩羅をいただき(ここも安くておいしかったです)
羽田の自宅まで戻った次第です。

のんびりしたとてもいい銀婚式記念になりました。有難うございました。
by カイホ (2012-02-12 08:52) 

FD

私は泊まった事はありませんが、老舗ホテルですよね。
一度 「ゆこゆこネット」 を利用しますと、しつこいほど案内が来ますが、
その中からお得なプランを探すのも楽しみになってきます。

銀婚、おめでとうございました。
余計なお世話かもしれませんが、これからも奥様をお大事に。

by FD (2012-02-12 11:17) 

楽しく生きよう

サイトドスリップは、今回のように機首を右に向ける場合は、ラダーを右にしながらエルロンを左に切って調整するのでしょうか。

民主党、野田市が首相なのになぜ輿石氏なる方が、人事権持つのでしょうか。こんな茶番をしている間にも日本国民が背負わされる借金が毎日増えているのに。ちなみに国民一人当たり毎日600円ほど借金増えています。
by 楽しく生きよう (2012-02-12 13:21) 

FD

風の方向が飛行機の右からの場合、飛行機を滑走路に正対させていますと、
当然の事ながら、飛行機は左方向に流される事になります。

そこで飛行機を風に釣り合うだけ右に傾けてサイド・スリップさせるのですが、
それだけですと、飛行機は右方向へ旋回してしまい、滑走路の延長線上
から右方向へと行ってしまいます。

それを防ぐために、左ラダーを踏んで機首が右へ向かないようにするのです。
通常とは舵の使い方が逆になりますので、これをクロス・コントロールと
呼んでいます。


輿石幹事長は民主党内では大物議員ですので(と本人は思っている?)
彼の意見を無視できないのでしょう。小沢ともつながりがありますし。

by FD (2012-02-12 15:05) 

名無しさん

速度を増やす事なく降下率を増加させるのはサイドスリップではなくてフォワードスリップですよね。。。
by 名無しさん (2012-02-14 07:07) 

IKE

ご無沙汰しております、学生の時そういう競技があり自分は全米で5位になってしまった経験があります。滑走路に白い線を引いてどれだけ近くに着地できるかという、今から思うとかなりバカな事やってました。ベースレグ曲がる前にスロットルを全閉にしてフラップは下げるのはいいけどあげると加点、スリップは禁止。航空母艦に着艦するような感じでフレアなしで着陸、ファイナルでは、失速警報が鳴りっぱなしでした。離陸しても滑走路の延長線で上昇しないと加点になるので、後ろ見ながら飛んでたし。。 高度が高すぎると失速ギリギリで降下率あげたり、よく事故にならなかったもんです
by IKE (2012-02-14 15:42) 

フクロウ

久しぶりにコメントいたします。お久しぶりです。
すみません、質問があるのですが…
Wikipediaの『横風着陸』の項で、こんな解説を読みました。
これはほんとうのことなのでしょうか。

デクラブ着陸
機体が滑走路に対して斜め(クラブ状態)のままで接地する事を前提としている大型旅客機では、主脚やタイヤはそれに耐えられる設計となっているので、接地寸前に機体が滑走路センターラインと平行となるよう操作するデクラブ(de-crab) は奨励されない。
by フクロウ (2021-08-07 13:59) 

FD

コメントありがとうございます。
主翼にエンジンをぶら下げた大型旅客機ではエンジンと滑走路の間隔が
十分ではなく、機体を傾けてしまいますと、エンジンが接触してしまう
恐れがありますので、クラブ状態のまま着陸するのが常識と言いますか
通常の手順となっています。

https://youtu.be/0MdO9z0uZJU

by FD (2021-08-08 16:34) 

フクロウ

遅くなりました。
返信ありがとうございました。
by フクロウ (2021-08-14 18:06) 

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