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オーバー・ブースト [航空関係]

システムの記事でオーバー・ブーストと書いたのですが、この言葉を聞きますと、B727の訓練を受けていた頃の事を思い出しました。
シミュレータでの訓練。
離陸後、ダウン・バースト(強烈な下降気流)に遭遇して機体が上昇しません。
そこで、スラスト・レバーを前に進めて更にパワーを出そうとしましたところ、「そこまで」 と言って、教官がスラスト・レバーを前に出すのを止めたのです。
エンジンのオーバー・ブーストを危惧しての事だったのですが、ちょっとばかり と思いましたね。

ジェット・エンジンはレシプロ・エンジンとは違い、離陸の時などにスラスト・レバーを一杯まで進める事は通常ありません。
その時の気温・気圧から計算された推力に達したら、そこでスラスト・レバーを止めるのです。
そして、その計算され値以上に推力を上げる事をオーバー・ブーストと言うのです。故に、エンジンの本当のリミットと言う訳ではないのです。

今から30年前、ワシントン・ナショナル空港を離陸したエア・フロリダ航空のB737が上昇できず、ポトマック川に架かる橋に激突し、墜落しました。
溺れかかったCAを男性が氷結した川に飛び込んで救助したテレビ画像を覚えていらっしゃる方も多いと思います。離陸後上昇できずに墜落した原因は幾つかあるのですが、

・ 機体への着氷により空力特性が悪くなっていた。

・ エンジン防氷装置をオフとしていたため、エンジン計器の表示が誤っていた。

・ パイロットが適切な対応を取らなかった。

エンジン計器の表示の誤り。
当該機に装備されていた P&W製のエンジンは、エンジンの出力設定にEPR(Engine Pressure Ratio)を使っているのですが、その原理とは、

blogjt-8depr.gif

コンプレッサー入口の圧力 P1 とタービン出口の圧力 P2 の圧力比によって表示・設定するようになっています。
ロールス・ロイス製も同じ方式ですが、GE製はN(ファンの回転数)で表示・設定します。
GEはN方式の有利性を述べていますが、両方の方式が使われていると言う事は一長一短があるのでしょう。

P1 の圧力が (数値は適当)で、P210 なら、EPR は 2.0 となり、これが適正な離陸推力と言う事になるのですが、この事故では P1 のセンサー部分が氷結により閉塞して、圧力を としか感知しなかったため、P2 の圧力が と低圧でも EPR は 2.0 と表示されてしまい、パイロットは適正な離陸出力が出ていると誤認してしまったのです。

他のエンジン計器、EGT(Exhaust Gas Temprature )や FF(Fuel Flow)の表示は当然低い値でしたので、コーパイは 「何かおかしい?」 と言っているのですが、機長はそれを無視して、そのまま離陸を続けました。

それでもまだ助かるチャンスはあったのです。
離陸後、飛行機が上昇せずに降下していった時、スラスト・レバーをフォワード・ストッパーに当たるまでガチーンと出せばよかったのです。しかし、オーバー・ブーストを気にしたのか、その操作は最後まで行われませんでした。
飛行機が墜落するかの瀬戸際に、エンジンの事を気遣ってどうするの。それに、オーバー・ブーストになったとしても、最後のリミッターは働きますので、エンジンが壊れる事はない筈なのですが。
車に乗っていて、後ろから津波が迫ってきたら、誰だってアクセル・ペダルを床まで踏み付けるでしょう?

黒澤監督の映画 『七人の侍』 で村の長老が言ってました。「首が飛ぶ時に、ヒゲの心配をしてどうする!」 と。

報告書を見ますと、このエア・フロリダのパイロットは結構バカな事をやっているのです。南国?の航空会社ですので、コールド・ウェザー・オペレーションに精通していなかったのでしょう。
以前、フランクフルトを出発する時、翼上面に霜が付いていましたので、防氷剤を使って霜取りをやったのですが、隣のスポットに居たシンガポール航空はそのまま出て行きましたからね。
この霜取り作業は念のためではあるのですが。

色々な経験により現在の規程では。ウインド・シェアー/ダウン・バーストに遭遇したら、

・ スラスト・レバーをフォワード・ストッパーに当たるまで進める。

・ 操縦桿を引いて、スティック・シェーカー(失速警報)が作動するまで機首を上げる。

となっております。飛行機の操縦は、

悪魔のように繊細に 天使のように大胆に ですからね。



名古屋市の河村市長の発言が問題になっていますが。もっとも問題にしているのは朝日新聞と、その尻馬に乗った中国ですが。
人口20万だった南京市で30万人も殺せる訳がない。 しかも、その後の南京市の人口は25万に増えていると言う。どの世界に虐殺が行われたとの噂のある街に逃げ込むアホな難民などが居るものか。
こんな小学生にでも分かるような算数が通用しないのが、今の日本と中国の関係なのです。
中国と、原爆投下や東京大空襲(3月10日 死者10万人)で民間人を殺戮した負い目を持つ米国が、
東京裁判で仕組んだ白髪三千丈級の大嘘ですよ。

河村市長頑張れ! 発言を撤回などしたら、またまた中国につけ込まれて、プロパガンダの材料にされてしまう。
野田首相は民主党の中でも右寄りの考えを持つ政治家だと聞いていたが、「名古屋市と南京市の問題」 として逃げをうっている有様、見損なったよ。
大嘘を暴く好機ぐらいに捉えればよいものを。

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ike

もううろ覚えですが、EPR表示をN1%に変換するソフトを組み込んだ記憶があります。たしか、その航空会社のパイロットがN1%表示に慣れているからとか。。。ちなみに自分がやったGEのエンジンはN1は最高でMTO(max. takoff thrust)130%位いったような記憶があります。なんでしょっぱなから100%超えるのだろうとおもいました。 前の会社でEPRとN1どっちがいいのだという話になって、EPRの方がエンジンの出力の状態をより的確に表しているとか言ってましたね。特にコンプレッサーストールの時とか。
by ike (2012-03-09 16:44) 

楽しく生きよう

この事故映像今でもおぼえています。
凍える川の中の乗員乗客を命かけて救おうとする消防士の姿が印象的でした。
てっきり翼の氷が問題なのかと思っていましたが、それ以外にもパイロットがミスをしていたんですね。

by 楽しく生きよう (2012-03-09 21:11) 

皮算用

オーバーブーストがエンジン性能から決まらないとなると、
メンテナンスサイクルから決定する運用基準なのでしょうか。

コーパイの進言を聞き流し、推力が不足しても最大推力を出さない。
サラリーマンの論理では、
 ・ 機体への防氷剤の噴霧は、コスト増加因子としてマイナス査定される
 ・ 離陸中止による遅延又は欠航もマイナス査定される
 ・ オーバーブーストの報告で、メンテナンスサイクルが縮減するなど
   でマイナス査定される
等を勘ぐってしまいます。

何度もあった事故回避のチャンス。
どのような背景が判断ミスを生んだのでしょうか。
昨今のLCCでは、「安全運航にかけるコストだけは縮減対象外」という
機運であることが何よりだと思います。
by 皮算用 (2012-03-10 17:39) 

カイホ

この事故のボイスレコーダーは当時何度も聞き返した記憶があります。
NPF「おかしい 落ちてる 落ちてる」とくりかえした後

PF「わかってる わかってる・・・」

何がわかっていたのでしょうか?当時大きな議論となりました。

来週末、「ゆこゆこ」で南房総に予約しました。「クチコミ」の評判の宿です。
春を先取りしてこようと思っております。結果はまた、報告いたします!
by カイホ (2012-03-10 20:54) 

FD

私はB727(P&W)とB747(GE)で、EPRとN1によるエンジン・セッティン
グの違いを経験したのですが、GE方式の方が優れていると感じました。
アプローチ中のパワー調整が、EPRではやり難くて、FF(Fuel Flow)
を参照してパワーの調整をしていたように記憶しておりますので。

飛行機事故は、幾つかの要因が重なった時、重大な結果をもたらすと
考えております。

LCCと安全の問題。
マスコミは綺麗事だけを並べているようですが、これまでに新規参入した
会社。航空会社としての体をなしていないとの話しも聞いております。

落ちている事が 「分かっている」 では困ってしまいますね。

by FD (2012-03-10 21:17) 

皮算用

飛ぶ鳥を落とす憩いの、国内旅行会社系LCC。
一時社長がパイロットの判断に干渉したと問題になりましたね。
その後、社長サイドが反省・改善したのか、パイロットサイドが諦めたのか、
確かに後日談を見聞きしません。

大企業から中小企業に転職した人が「会社の体をなしていない」と
事務処理や会社の体制を愚痴る程度なら良いのですが、
飛行機のメンテナンスを「しくみ」でおこなうのではなく、
整備職員の「ガッツと根性」で解決するようであれば問題です。

by 皮算用 (2012-03-11 10:55) 

FD

航空会社。最初は十数人乗りの飛行機から始まり、まともな運航規程も
ないまま、パイロットの腕一本で飛ばしていたような時代。
その後、飛行機が大型化・高性能化する中で、規程類も整えられていき
現在の姿があります。

一方、既存の航空会社の規程類をパクって、一夜漬けで始めたような会社
とでは、内容に大きな違いがあるでしょう。
ジャンプ競技でも、最初は5メーターぐらいの台から初めて、徐々に大きな
台に移っていくのでしょうが、初心者がいきなり100メータークラスの台では
危なっかしい限りです。

LCCの安さの秘密として最初に言われるのが飲み物の有料化ですが、
この効果がどれほどあるのかは疑問としても、LCCでもないのに
殆どの飲み物を有料としている航空会社があることに違和感を覚えます。
LCCとの差別化が必要だと思うのですが、元に戻せないのは、
すぐ戻してしまいますと、それを決めた人間の責任問題に発展するから
なのです。
こう言ったことは多いのです。馬鹿馬鹿しいことは早く止めろと言っても
なかなか改善されないのです。

by FD (2012-03-12 08:33) 

皮算用

私事ですが、3月末に息子と二人で卒園旅行に出かけます(目的は乳離れ)。
飛行機の移動では、大手にするかLCCにするか、悩ましい決断も生じました。
結局、欠航になると全ての旅行プランが台無しになるLCCは、
リスクの観点から、早割との価格差に見合わないと判断し、
大手にお世話になることに。

航空機による移動は、ちょっと前まで「高級品」でしたが、早割制度の導入や
LCCの就航で、身近なものになってきたと思います。
劇的な価値観の変化に、航空会社も、何が自社のサービスなのか、
どのサービスに顧客が付いてくるのか、について暗中模索なのですね。
by 皮算用 (2012-03-12 12:53) 

FD

長い路線や、荷物が多い時には大手にするとか、賢い使い分けが
必要になってくるでしょうね。

LCCのリスクと言いましても、元々安全な乗り物ですのが、その点を
気にする必要はないと考えますが、便数が少ないし予備機もないでしょうから
旅行プランを重傷視するなら、やはり大手でしょう。


by FD (2012-03-12 14:14) 

Atsusuke

はじめまして。

いつも興味深く拝見しております。自費で飛行機の訓練をしているものです。小型機(チェロキーとセネカ)の操縦経験があります。後学のため、1点質問いたします。

> 色々な経験により現在の規程では。ウインド・シェアー/ダウン・バースト> に遭遇したら、
> ・ スラスト・レバーをフォワード・ストッパーに当たるまで進める。
> ・ 操縦桿を引いて、スティック・シェーカー(失速警報)が作動するまで機> 首を上げる。

との規程についてですが、設置直前で地面にものすごく近いところでウィンドシアーやダウンバーストに入ってしまった場合も、原則同じ対応をするのでしょうか。

先日のA320のしりもち事故のとき、新聞記事によるとパイロットに「地面に近いところでの機首上げには注意するように」という旨の注意喚起がされたとありました。自分が当事者だったらと考えると、「失速警報がなるまで、だけど後ろも気にして、、、」となると、ダブルスタンダードになってしまうように感じました。

例えば、AOAが16度になるまで上げないと落着する!というような極端な状態を考えたとき、優先順位はどちらになるでしょうか。しりもちをついてでも落着は防ぐべき、かタイヤの上に落ちるほうが、尻尾から落ちるよりまし、でしょうか。

その状況に近いかなと思われる動画を見つけました。動画では沈みを感じたときにピッチをぐっと上げることで一度バルーニングさせて、もう一度姿勢を作り直して事なきを得ていますが、前述の2つの選択肢にかんがみて、これは適切な対応だったのでしょうか。FDさんのご意見をお聞かせいただければ嬉しく思います。

http://youtu.be/Kf_Bhp8FEs0
by Atsusuke (2012-03-13 23:50) 

FD

ウインド・シェアへの対処法。
ハード・ランディングと言ったレベルの話ではなく、飛行機がクラッシュするか
どうかの瀬戸際での話ですので、尻餅など考慮にはないでしょう。
イメージとしましては地面近くではなく、もう少し高い高度での対処法ですね。

伊丹の 32L かなり強い横風が吹いていたようですが、この場所は
西風が吹きますと、建物の影響で気流が悪かった記憶があります。
「一度バルーニングさせて」 と言うよりも、沈みに対応しようとして
急にピッチを上げすぎたので、「バルーニングしてしまって」 と言うべき
でしょう。
しかしその後は上手くコントロールして、着陸させているように見えます。

by FD (2012-03-14 06:18) 

Atsusuke

お返事ありがとうございます。

なるほど、どちらが被害の程度が大きいか比べて
優先順位を考えてみれば、当たり前のことですね。
より重要なのは、地面近くでそんな状況にならない
ように事前に対策を打つことでしょうか。

プロペラ機では、パワーを入れればすぐに機体が浮い
てくれるので最後の最後までパワーコントロールでもって
いくことが出来ますが、ジェット機の場合はスロットルに
対してエンジンの立ち上がりが遅く、プロペラ後流もない
ので揚力がすぐに回復しないと伺ったことがあります。

動画のようにいきなり沈んでしまったとき、パワーに頼る
ことが出来ないことを想像するととても怖く感じるのですが、
その辺はどのようにマネジメントしているのでしょうか。
例えば、同じ条件(ここでは主に風ですが)のプロペラ機と
比べて、全体的に余裕を持った速度を保って接地まで
持っていく、といったコンセプトの違いなどはあるのでしょうか。
一方で、ジェット機もプロペラ機もVatはVs0 X 1.3という
のは変わらないはずだ、とも考えています。
by Atsusuke (2012-03-15 21:02) 

FD

後退翼機は揚力傾斜(ピッチの変化に対する揚力の増加)が少ないので、
操縦桿を引いても沈みが止められない傾向にあります。
特にむかし乗っていましたB727はその傾向が強く、パワー・アップが
沈みを止める唯一の方法でした。
その代わり、直線翼機に比べて揺れが少ないのですが。

ジェット・エンジンはアイドルからの追従は悪いのですが、中速域からは
それほど悪くありません。
GE CF6エンジンには、地上よりも高回転のフライト・アイドルがありました。

by FD (2012-03-15 22:33) 

Atsusuke

ご回答ありがとうございます。

後退翼の特性は、知りませんでした。今日深いですね!
また、ジェットエンジンも使用域によって特性が異なるのですね、

ピッチアップでの揚力増加がそうそう期待できないとなると、
後退翼のジェットパイロットはアプローチ中、出来るだけ
エンジンを中速域に保ちながら降りることで、突発的な沈み
に対するマネジメントをしているということでしょうか。

なんだか長くなってしまい恐縮ですが、知らない分野なので興味
がつきません。よろしくお願いします。


by Atsusuke (2012-03-17 01:00) 

FD

うろ覚えの記憶では、CF6 エンジンのグラウンド・アイドルは25%N1、
フライト・アイドルが30%を少し超えるぐらいだったと思います。
そして、アプローチ中のN1は重量によっても違ってきますが、
F25で57%、F30で61%ぐらいでしたので、そこからの加速性能は
鋭いものがありました。

by FD (2012-03-17 13:34) 

Atsusuke

なるほど、やはり中速域でアプローチしてくるんですね。大変参考になりました。ありがとうございました。き
by Atsusuke (2012-03-18 00:38) 

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